2023年1月14日土曜日

河川敷ファーザー ファイナル

東海が狂気とも思える凶行に出た挙句に、振り上げられたナイフが振り下ろされるまでの間が何秒間だったのか、僅か数秒の間で、俊樹はある日の夢の中で見た光景を思い出す。

夢の中で、思いがけず面食らった場面で争いになってしまうが、思い通りに体が動かない、今すぐそこに走り込みたいのに、まるで自分の足に重りでも付いているかのように、普段ならばもっと俊敏に動けるはずなのに、恐ろしく体が重く鈍く、水中にいるかの様だ。

そう、あれはまるで、プールの中を走っている様な、そんな夢を見たことを思い出す。

振り下ろされるナイフの先端は、俊樹が俊男の元に駆け寄るに足る距離の、何十分の一だろうか。

その距離をナイフが振り下ろされるより早く、この足であの場所に入り込めるのか。

とても悲しいけれど、きっとそれは叶わないのだろう、俊樹は直観的にそれを認識してしまった。 だから彼はきっと叫ぶしかないのだろう。 

”もう止めてくれ、これ以上俺の家族に関わらないでくれ”

それが今この瞬間の彼の最たる願いであり、平穏に暮らしてきた彼ら篠崎家にとっての渇望される願いである。

だがそれを圧倒的な無感情さで突き破って押し入ってくる暴力に、人生最大限の勇気と精神力で立ち向かっている俊男。

その戦いを、命の危険を顧みず守る母親、身体を張って全員をまとめて守ろうとする俊樹の正しい道徳観は、成す術もなく暴走する純粋かつ未成熟な人間性が操作するナイフの先端で破壊されてしまう。

きっと意外と牧歌的な結末が待っていると信じていた俊樹が、ここまで来て初めて恐怖したのは、会ったことも見たことも無い、人生で関わりようの無かった狂った人間の暴走した力を目の当たりにしたからである。

俊男は雄叫びを上げて、東海の胴体にタックルを当てる。

ほんの少し、桃子から東海を遠ざけるが、それ以上は東海はビクともしない。 

中学生の男子の成長期というのは差が大きい。 人によっては1年生から一気に成長が始まるが、遅い成長期であれば高校生にならないと大きくならない子もいる。 この二人は明らかに対照的だ、一方はもうすでに180センチ近い、一方は160センチ程度、余りにも差が大きい。 

幸い桃子からは東海迄の距離は2メートル程度、だが俊男は背中を無防備に東海へと晒してしまっている、もはやナイフの事など気にも留めていない、母親を死ぬ気で守りに行っている。

俊樹の叫びは届かない、ナイフは無常に振り下ろされる。

もう駄目だ、間に合わない。

だが、そうはならなかった。

生きた魚の表面の様な煌びやかな刃はどこにも刺さらず、俊男の背中の手前でピタリと止まり、東海の顔が強烈に歪んで身体をぶるぶると痙攣させる。

東海の背後に亡霊の様に見えるバイクのヘルメットを被った黒ずくめの男が一人立って、東海の首を後ろから右腕で掴んでいる。

東海は思わず身悶えして前方に駆け出す。

黒ずくめの男は無言で立っている。

東海「誰だお前!何しやがった!?。」

黒ずくめの男「気に入らないので止めただけだ。」

俊樹は思い出す、この男、さっき土手の後方から俺を覗いていた男だ。全身真っ黒なライディングウェアーを纏っていて、フルフェイスのヘルメットはスモークになっていて表情は全く見えない。

何かの道具だろうか、両腕、胸部、腰回りに妙な装置を沢山ぶら下げている。

ヘルメットの中から無線の通信の様な雑音が微かに聞こえる。

「足田!お前、いー何やって―ー 標的はーーー!」

「悪いな幸田、ちょっと寄り道した。見逃せない案件だ、直ぐに終わる。」

東海は自分が何をされたか分からない、全身に電流が流れて身体が雷を打たれたように動けなくなった。 無論東海は雷に打たれた事が無いのだが。

これまで感じたことのない恐怖を覚える、あまりにも異様な雰囲気の大人の男に対峙して、誰彼構わずに傍若無人に立ち向かってきた彼はこの時点で、生まれて初めての気負いを覚える。

俊樹はこの隙に一気に東海の方へ走り込む。

俊樹「このガキ!お前自分が何やってるのか分かってんのか!」

突っ込んできた俊樹に顔面を思い切り殴りこまれるも、思わず俊樹を殴り返す東海。 そして二人はもみ合いになり折り重なる。 

その内に東海だけが立ち上がる、俊樹は四つん這いになって動けない。 

腹に、腹に力が入らないぞ、熱い、何だこの暑さと全身から噴き出す汗は。 

桃子「お父さん!なんで!なんでこうなってしまうの。」 

桃子が泣き叫びながら駆け寄って俊樹を支えるが、たまらず寝転んで仰向けになると、左の脇腹から大量に血が流れだしている。

俊男と他の子供達は目の前で起こっている現実に唖然として茫然自失で立ちすくむ。

すかさず黒ずくめの男が東海に立ち向かう、目の前まで迫ったところで、もはや半狂乱と化した東海がナイフを前へ突き出す。

男は左手でナイフの刃先を直接掴む、ガッチリつかんで離さない。 東海が左腕を右手に重ねて力ずくで引き抜いたが、それでも男の左手は無傷。

男はゆっくりと落ち着いた動作で、右の掌を開いて東海の顔へ向け、ヘルメットの首元に付いたスイッチを押す。

次の瞬間、強烈な閃光が東海の顔面で炸裂。 東海は顔面を手で覆いのた打ち回る。

視界を奪われた東海の元へゆっくりと近付いて、再度首を後ろから掴む。

今度は右腕の袖当たりのスイッチを左手で押すと、先程と同じ様にまた東海が一瞬激しく震えて、完全に沈黙した。

すぐさま男は俊樹の元へ近づいて、流血している箇所を確認して、何やら無線でやり取りを行っている。 

男「幸田、怪我人がでた。 脇腹をナイフで刺された人物がいる、介入したからには一般の病院は使えない。 例の病院へ俺がバイクで運ぶぞ、連絡を入れておいてくれ。」

無線「お前一体何やってんだ!なんで他人のトラブルにお前が絡んでる、おまけに怪我人だと!?」

男「悪いな、人助けだ。 見過ごせない状況だった。 たまには俺の道楽にも付き合え。」

無線「・・・。分かった、傷口にタオルを当てて縛って圧迫してから搬送しろ。 それで失血死なら運が悪いな。因みに重篤な内臓損傷の場合は処置は諦めてもらう、それが嫌なら救急救命に行け。」

男「了解。」

男は俊男と桃子に指示を出し、俊樹を自身の身体に積載していた積み荷積載ベルトで固定して銀色の大型バイクにまたがり、エンジンを掛ける。 強烈な低音で周囲の雑草が細かく震える程の低周波がこだますが、決してうるさい音量ではない。

去り際に一言言い放つ。

「ガキ共、もし次にこの家族に近付いたら。 一人残らず、必ず、殺す。」


~2週間後~


夏の夕方の雨は大抵決まってゲリラ豪雨だ、父さんは昔は夕立だったと言っていたが、夕立とゲリラ豪雨の差が何なのかを聞いたら、こう言っていた。

「夕立はさ、サイダーみたいな感じだよ。 シュワーってしててな。 雨なんだけどな、気持ちいいんだよ。 その後晴れ間が戻ったら虹が掛かったりするんだ、当たりが真っ赤に染まってな、そこらから晩御飯のカレーの匂いがしてきたりする。 ゲリラ豪雨とは違う。」

「ふ~ん、なんかよく分からないけど昔にしかなかったんだね。」

ゲリラ豪雨が迫りくる最中、喪服を着た桃子がコンビニで傘を買って戻ってくる。 

傘を俊男に渡して、二人で葬儀会館前で並んで立っている。

俊男「母さん、あれから東海君は学校にも来てないよ、事件にはならなかったけど。」

桃子「うん、、母さんね思うんだけど、あの子、誰かに止めてもらいたかったのかなと思って。 あのバイク乗りの男の人、良く止めてくれたわねぇ。 あの子、自分でももうどうやって自分を止めたら良いか分からなかったんじゃないかしらね。」

俊男「そんなの勝手だよ、あんな無茶苦茶しておいて。」

桃子「子供からするとねぇ、そうよねぇ。 だけど大人がしっかりしていればあの子があそこまでおかしくなることってない様な気もするのよねぇ。 廻りの大人がそれで良しとしてきた環境だったんじゃないかしらね。」

そこへスピードを上げた白いワンボックスが二人に近付いて停まってウインドウを下げる。

俊樹は苦笑いしながら言う。

俊樹「ごめんごめん!遅くなった、この葬儀場、駐車場が広すぎて何処に停めたか分からなくなってしまった」

俊男「だから入り口近くに停めた方が良いって言ったじゃん!」

俊樹「いや~すまんすまん、奥の方が落ち着くんだよ。さぁ乗った、帰ろう。」

車中でタオルで頭を拭きながら俊男は幾つかの気になっている事を俊樹に聞いてみる。

俊男「お爺ちゃん結局何歳まで生きたんだっけ?」

俊樹「90歳だったな、、、まぁ最後は眠ったまま逝っちまったからなぁ、それはそれで苦しむ事なくて良かったのかな。」

悲しそうな表情で言う俊樹に重ねて聞いてみた。

俊男「全然違う話だけど、父さんあのヘルメットの人と病院で話したんでしょ?どんな人なの?」

俊樹「それは、、、絶対言えない、話さない約束。 多分、良い人ではないみたいだ。 だけど、悪人でもないというか。 ただ言ってたよ、俊男も俺も桃子も、凄い勇気だと思うって。 だけど次からは相手の指定地には赴くなってさ。」

俊男「なるほど。」

ゲリラ豪雨は止んで、雨上がりの空が夕焼けに染まる。 車内が真っ赤に染まって、俊樹は嬉しくて笑ってしまう。 

笑うとまだ傷口が痛い。



書いておいてなんではあるが、後半の出来の悪さは自身でも容赦し難い物がある。

う~ん、小説って難しい。

短編と決めていたので、4話で完結させないといけないという縛りもあってか、ディテールにまで解説が及ばないのと、俊樹が生き延びたのか死んだのかをもっと上手くサプライズできたように思うがそうはなっていない。

長編であれば、東海のその後も描けるが。

またはヘルメットの男の登場のさせ方ももう少し工夫が必要である、ここだけ読んでもなかなかヘルメットの男の正体は当然つかめないが、書き方次第でそれに纏わる別ストーリーが展開されているのだろうと想像させることは可能であるから、ここではあまりにも稚拙な登場と言えると思う。

気を取り直して、次のお話を書いていこうと思います。

次は

”キエル魔球”

というお話。



2022年12月29日木曜日

2022 年末のご挨拶

 誰しも大なり小なり持っている物なのかと思うが、店主の場合においては仕事モードスイッチというのが明確に機能しており、スイッチをOFFにしてからもう既に3日が経過した。

しかしながら毎晩見る夢は仕事の夢ばかりで、一昨晩などはブログで書けない程に奇妙な夢を見てしまったもので。

あまりにも奇妙だったので、たとえ夢であっても書くのは憚られるのである。

それはそれとして、スイッチがオフになると酷い集中力の下がりようでございまして、先日の食事会などは約束の時間の10分前に着こうかと思っておりましたら、丁度時計の短針一周分を戻した状態で気付かずに動いてしまっておりまして。

結局1時間丁度早く着いてしまったので、近くの喫茶店で1時間を潰すことに相成りました。

滅多に流行りの喫茶店など入らないものですから、無糖と砂糖どっち?とお若いお嬢さんに聞かれたものの、叔父さんは上手く聴き取れずに、「レギュラーかな。」と答えてしまう始末で。

お嬢さん笑ってくれれば良かったんですが、ムスッとしたまんまであまり愛想は良くなかった印象なもので、カチンときてついつい説教してしまいそうになるのを堪えて、「あ〜、こりゃ失礼、無糖でよろしくお願いしますね」と答える自分に、気が長いのか、意気地がないのか、こういう場合どっちに数えるのが良いのかと暫く考えてしまいました。

そんなやりとりがあった手前に、ちょっとしたハプニングがあったのですが、お店の入り口にあった足拭きマットが捲れていたので、自動ドアを越えながら、右足でパタパタと戻してやろうと適当な事をやっていたら、空いていた自動ドアが戻ってきて閉まろうとするもんで、慌てて身を引いたのですが、店主の無駄に細く長い首だけが挟まりそうになりまして。

おいおい、これで首だけ挟まって、想像以上に駆動力が高かったら頸椎を痛めてしまうのではないかと焦ったもので。

慌てて右腕の肘を壁に、掌をドアに当ててつっかえ棒にしたまでは良かったのだが、その力が恐ろしく強く、機械的な力が人力を圧倒的に上回るその時に感じる少しばかり無慈悲な力差というのを身体が感じると、どこかに置いてけぼりを食らった様な、ほんの少し悲しい気持ちになるのです。

オートバイで事故を起こした時も似たような気持ちになったりします。

まぁ強烈な圧力を感じた後に安全装置のセンサーですぐに開放されましたが、その焦りを残したままのレギュラーの回答でしたから、致し方ないと付け加えたい。

そんな訳でございまして、久しぶりの長期休暇に入り今年の残りもあと僅か。

今年の締め括りのご挨拶の更新となります。

本年中も変わらず芦田屋をご愛顧頂き、誠にありがとうございました。

今年はとにかく忙しく、昨年までは休み休みで旅をご一緒したり、作業の合間に度々談笑を楽しむ余裕が沢山あったのですが、その点では折角のご来店時にあまり楽しんで頂けなかったのではないかと申し訳なく思う事が多々ございました。

来年は淡白な一年とならない様に、多少の遊び時間を持てる一年になればと思いますが、この調整というのがまた難しいものではございます。

一抹の懸念を残しつつ、新たな一年も何卒芦田屋を宜しくお願い申し上げます。

芦田屋店主






2022年12月16日金曜日

河川敷ファーザー Vol.3

青く生い茂った土手に生えているのは芝と呼べるのか、それとも単なる雑草なのか?

そんな事を思いながら顔を上げ続けて歩く、一歩一歩、自分の勇気と生存を確かめる様に踏みしめる。

俊男は思う、こんな恐くて孤独な気持ちは生まれて初めてだと。

もしかしたら傍から見ればどうってことも無い、どこにでもある様な仲の良さそうな子供たちにでも見えるだろうか。 もしそうなのであれば、余計に悔しい、大人がしっかりしていれば、大人がもっと見ていてくれたなら僕はこんな目には遭わないのではないか。

何故守ってくれない、何故僕を救ってくれないのだ。

もういい、僕一人でも戦うしかない。

俊男はたった一人で、6人の少年達に対峙する。 中でも一際背の高い東海少年が口を開く。

東海「おい俊男、おせぇぞ、あぁ?」

俊男「・・・・。」

東海 「てめぇ、舐めてんのか?返事しろおい!」

俊男「うるさいなぁ、”俺”は走って来たんだよ、それでも遅いってことは設定時間に無理があるってことなんじゃないの?」

東海 「こいつ、、、!」

俊男は全身の筋肉に緊張と恐怖による痙攣が起き、生物的な反応で言うところの、逃走準備段階に入っている事を察したが、俊男は生まれて初めての経験になるであろう、拳を握った。

東海の振りかぶった右腕が全身の捻り運動の補助を経て、俊男の顔面に向けて強烈なスピードで振り下ろされる。 

俊男と東海の身長差はかなり物で、まるで上空から降って来る隕石の様だ。

俊男は両腕でガードする、意識したものではない、咄嗟に恐ろしさのあまり無意識に顔を守ろうとした所作に近い。

東海の拳が俊男の腕にめり込む。

俊男「ぐっ!」

恐ろしい威力だと思う、東海君は空手を小学1年生から習っているらしい、空手のパンチはこんなに痛い物なのか。 

東海「お前さ、マジで殺されたいの? 10万だよ10万、早く出せよ。」

俊男「うるさいんだよ、ある訳ないだろ!10万なんて!なんなんだよ!」

俊男は右腕を大きく振りかぶって、東海同様のパンチを繰り出そうとするが、やはり生まれて初めて人を殴る人間特有の遠慮と殴る事への恐怖が入交り、大袈裟な動作になり、あわよくば避けてもらいたいと思っているのではないかと思うほどのパンチである。

難なく避ける東海、しかし、俊男は打算していた。

余裕を持ってかわした東海に体ごと強烈なタックルを喰らわせる、そのままの勢いで倒しこんで馬乗りになった。

東海「俊男てめぇ!」

東海が発する殺気が一気にボルテージを上げる。

一気に場の空気が変わる、凍り付いたように周囲は東海の殺気につられるように嫌な空気が漂う。 

その頃俊樹は、激しく咳き込むほど全力疾走した後に何とか河川敷まで到着して、土手の手前から俊男の様子を伺っていた。

俊樹の胸に去来する複雑な思い。 

果たして中学生の喧嘩に40後半のオッサンが割り込んで、大人の力でねじ伏せて安易な解決を図っていいのだろうか? 

そりゃ本気になればさすがに中学生相手ならもし暴力沙汰になっても抑え込めるような気がする。 俊男も守れるだろう、それで連れて帰って、ハイめでたしでしたとなるのか?

そもそもなぜ俊男はあんな連中と絡んでしまったのだ。 母さんには悪いのだけど、まぁ所詮は中学生の喧嘩、男の子なら時にはこういう事もあるし、こういう場面をくぐっておかないと後々に影響しそうな気がする。 ひとまず様子を見てみよう、危ないと思ったら飛び込もう。

そう思う俊樹の胸に去来する一抹の不安要素。

以前ゴミ回収業務の最中に会社の先輩に言われたことがある。

「篠崎さぁ、グレたことないだろ? お前さん真面目過ぎるよ。」

「はぁ、自分は特に反抗期とかなかったもんで。」

「気を付けないと、お前さんさっき普通に話してた男、あれはヤバい、次から無視しろ」

「え、でも普通に話しかけられたもんですから」

「世の中にはな、どうしようもない悪ってのがいるんだよ、悪でも2種類いてな、まぁ人の心持って明るい不良ってのをやってるやつと、人の心を捨てた悪魔みたいな奴がいるんだよ」

「あぁニュースとかで、、、」

「バカだなぁ、そりゃたまたまニュースになっただけで、そういう奴は候補生としてその辺にごろごろいるんだよ、いつ殺人者になってもおかしくない連中だよ、いいから誰とでも愛想よく話すのはやめときな」

「そういうもんですかねぇ」

人の心を捨ててしまった悪。 俊樹にははっきりとそういう人物がどこの誰なのか現実味がなかった。 まさかこういう連中がそうだったとしたら、どう対応すべきなのだろうか。

その時、土手の下でワッと声が上がり、砂煙が舞う。 汗が目に入ってよく見えない、だけど殴り合っている? 俊男が?

思わず、立ち上がって飛び出しそうになるが、ここでもぐっと堪える、待て俊樹、まだ早い。 俊男は自己解決に向けて全身全霊で戦っている、ここで水を差すのか、いやダメだ。

どうにもならないと明らかな場面まで待機だ、いやしかしもし取り返しのつかない事があったら、、どっちだ、どっちが正解なのだ。

子供の自主性? 子供の保護? 

更に土手の下が騒がしくなる、今度は俊男が馬乗りになっているようだ、まさか俊男が優勢なのか。

その時妙に背後の方から凝視されている気配を感じたので振り返ると、全身黒づくめの妙な男が遠くから見ている事に気付く。 ヘルメット?

土手の方では、東海が唸り声を上げながら俊男を両手で下から体ごとリフトアップする、そのまま捻り倒して地面に叩きつけた。 埃を払いながら東海はじっくりと俊男に迫る。

軽い動作で右足を腰の高さにゆっくりと上げたのち、俊男の脇腹狙いの様な蹴りを繰り出したと思った瞬間、膝辺りからくいっと高度を変えて顔面目掛けて蹴りを繰り出す。

俊男は左のこめかみ付近に強打を喰らう、まるで低速の紙飛行機の様によろよろと倒れそうになり膝をつくが、倒れない。

俊男「ふう、、痛いなぁもう」

俊男の中で何かが吹っ切れた、もうどうでもいいやと思った。 全部どうでも良い、死んだって良い、そう思った。

武力では勝てない、頭を使うんだ、IQで勝たないと、あんなキックをもう一回喰らったらもう立っていられない。

左手で手を着くふりをして砂を思い切り掴む。

砂を掛けて目くらましだ、右手は石を掴もうとするが、やはり諦める。 そんなことをしたら人を大きく傷つけてしまうかもしれない。 ならば素手で急所を狙うしかない、首だ、何とか背後に回ってチョーク何とかというやつをやってみよう、それなら非力でもやれるかもしれない。

東海「なめやがって篠崎、お前だけはマジで殺すからな、絶対殺す」

俊男「だからなんで俺が殺されなきゃいけないの?」

その瞬間、俊男は思いっきり砂を東海の顔面に目掛けて投げつける、が、動作を悟られ、東海のガードが一瞬速かった為、不発。

だが俊男は東海のガード時間を使い、東海の少し左側へそれた位置へ向けて猛ダッシュで突っ込む、右サイドにあった大きめの石を蹴って、反動の動きを使い三角飛びの要領で両手を思いっきり伸ばして首へ巻き付ける。

掛かった!腕が絡んだ。 このまま締め上げる!

だが東海は右腕を前へ出して、肘を思いっきり俊男の脇腹へ叩き込む。 

俊男は大きく前のめりになっていよいよ、地面に頭から崩れ落ちる。 

息が出来ない、苦しい、死んでしまう。

そこへ目を血走らせた中年男性が土手を駆け下りて大声で何か叫びながら走り込んできた。

俊樹「俊男!大丈夫か? 君たち俊男と同じ中学の子だろう、もういい加減にしなさい!」

東海「あぁ?オッサン誰なの? なんなの?」

俊樹「俺はこの子の父親だ。」

東海「あぁそうなの、じゃあ話早いじゃん、俊男に貸してた10万代わりに返してよ。」

俊樹「え、、貸してた?そうなのか俊男。」

俊男「父さん、、そんなわけないじゃないか!」

俊樹は動揺する、大人が駆けつけたところで一旦引くのではないかと思っていたが、引くどころか平然と嘘までついてきた。

引いてもらわないと、大事になってしまう。 警察を呼ぶようなことなのだろうか、そんなたいそうな事とは思えないが、、。

俊樹「とにかくこの場は君たちもう帰りなさい、こんなところで騒ぎを起こしてしまったらいい事は何もないぞ」

東海「うるせぇ!オッサンお前もやっちまうぞ。」

俊樹「は?」

東海「お前らこのオッサンボコっちまえ、俺は俊男を殺す。」

俊樹「ちょ、まてまて、おいおいおい」

俊樹は先輩の言葉を再度思い出す。 

世の中にはどうしようもない悪ってのがいるんだよ、そいつらはどうにも止められない、そういう奴が人を殺すんだよ。

まずいと思った時には背後から背中を思いっきり蹴られる、ここまでされては大人の俊樹も流石に怒りが込み上げてくる。

蹴りを入れた仲間の一人を思いっきりヘッドロックして引きずり倒す、そこへ前方からまたもう一人、飛び蹴りで俊樹の顔面に蹴りを入れる。

たまらずヘッドロックをほどいてしまう、そのまま蹴ってきた少年の足を右手で掴んでまた引きずり倒す。

こいつら、本気で殴ってやろうか、と思うが、まだ迷う、大人が子供を相手に本気で殴り合って良い物か? 

と思った瞬間大勢から一気に畳みかけられる、何か固い物で思いっきり頭を殴られた感じがする、石か? 体温より少し暖かい位の液体の感覚が鼻を伝っている、頭を石で殴られたのか、なんだこいつら、本当に中学生か、残酷過ぎないか。

隣で東海が俊男を跪かせ、顔面に思いっきり前蹴りを叩き込む、あっけなく俊男が後方へ吹っ飛び後頭部を強打する。 

それでも俊男は立ち上がろうとする、全身全霊の力で体をぶるぶると震わせながら、立ち上がろうとする。 

俊樹が声にならない叫び声をあげて東海へ突っ込む。

俊樹「お前何やってんだ!この野郎!」

俊樹は助走をつけた強烈な右パンチを東海の顔面に真横から叩き込む、ゴムの塊を殴ったような妙な感触が拳に伝わり、東海がよろける。

俊樹はその時東海の目を見た、その目はかつて俊樹が中学生だった懐かしき時代には見たことがない、寒々しい、人の感情を見ることが出来ない恐ろしい物だった。 昔ニュースで見たような、そう、どっかで見たことのある殺人犯の目。

東海は右ポケットから細長い華奢な物を取り出して折り畳まれていた物を折り返して伸ばす。 ナイフだ。

背筋が寒くなる、この子は普通じゃない。 とても話し合いをできる状態じゃない。

その時、女性の大きな怒鳴り声が聞こえ、中年女性が走り込んできた。 

桃子が追いかけてきた。

東海と俊男の間に入り込み、桃子が真正面に対峙する。

桃子の顔は青白い、これは本当にまずい、桃子の血圧は確実に下がっている。 極度のストレスのせいか、不整脈が連発している。 

東海「お前誰だよ、全員殺してやろうか?あぁ!」

この少年、なんなんだよ、まともじゃない。 こんないかれた中学生が世の中に居るのか、どうやったらこんなガキが出てくるんだ。

俺が何とかしないと。 さいしょから警察に電話するべきだった、遅すぎた。 こんなに大事になる程おかしな子供だと思わなかった。

スマホを取り出したところに、背後から強烈な蹴りを喰らう、衝撃でスマホを落としてしまう。 残りの仲間も殺気立っている、これは完全につられている、この長身の少年の勢いに影響されておかしくなってしまっている。

少年の一人「オッサンの相手は俺がやってやるよ」

俊樹「お前ら、もう許さない、、。」

俊樹は少年の一人を思いっきり殴り倒し、後ろに構えていた少年にまた近づく。

更に鳩尾に思い切り蹴りを入れる、少年はかろうじてガードするが、後ろへ倒れ込む。 40後半の年齢とはいえ、14歳の少年達との力の差はやはりかなりのアドバンテージだ。 

一人一人なら負けることは無い。 だが、問題はあの長身の少年だ。

残り3人と対峙している間、横目に東海が桃子に近付く様子が入る、まずい、助けに入らないと。 だが、背中を見せた瞬間恐らく残りの仲間たちは襲い掛かってくるだろう。

万策尽きて頭が真っ白になりかけた時、東海に飛び込む影が見える、俊男だ。

俊男が立ち上がって、ナイフを持った男に飛びかかる。

東海が背筋が凍る様な寒々しい薄笑いを浮かべて、ナイフを天高く振り上げる。

俊樹は叫ぶ

”ダメだ!止めろ止めろ! 止めてくれ!”

続く


何だかちょっとバイオレンスなシーンが続いてしまいましたが、この問題の本質は暴力シーンとは全く別の所にあります。 店主はそんなに社会的な人間ではないので、それが伝わるかどうかは特に期待していることも無いのですが、でも自身の再確認として、その時々に子供の育成という所の本質的な問題を書くことで落とし込むという作業に近いかもしれません。

こういった形になったのは、先日申し上げました旭川の事件の事もありますし、地元の殺人を犯してしまった少年が割と近くにいたせいもあります。 しかも1人ではなく。

東京に来て、平々凡々と暮らしておりますと、且つてそういった凶暴な人達の事を思い返したりしますが、いつも思い返すと、そういった少年達の家庭環境に、ある一定の少なくない問題点というのを思い返すことが出来ます。

店主自身は比較的平穏な家庭に生まれたのですが、それ自体がとても幸運な事だと思います。

親ガチャなんて言葉がございますが、まぁネーミングは別として、それは実際に家庭環境という物の一人の人間に及ぼす強烈な影響力を少し怖く思ってしまいます。

ごくごく、平凡な当たり前のことが、ある家庭では到底叶えられない様な、望むべき失われた幸運だとしたら。

それはとても怖いのでございます。

それは親次第、そして周囲は介入できない密室の世界だからなのです。

その問題に介入する職業の人たちがいます、介入の限界に挑戦しつつ、日々格闘するお仕事をする方たちもいらっしゃいます。

そういったお仕事をなさっている方たちの仕事と活動が一人でも多くの少年少女の救いとなり、効果を得やすい仕組みと社会になる事を願ってやみません。

自分はバイクをいじりながら、それでもバイクをいじりながら、そうは思っておるのであります。 思っているだけで何もしていません。

それが芦田屋店主であります。






 

2022年11月24日木曜日

不動産屋のオヤジ曰く

小説バージョンを只管書き連ねるブログになってはこれまたブログとしてはどうなのか?

いや、そもそも論が好きな年代心得。

バイク屋のブログとしてはどうだと。

そう思い至ったところから、こちらでも番外編的な近接芦田屋心境をつづる事にはある一定の魅力期待値が備わるかもしれないと。

忙しい所に更に忙しさを加速される狂人芦田屋店主でございます。


本日はBGMで久しぶりにチャーリーパーカー氏を流しておりました。

いつもながら技術的な事は語れませんが、チャーリーパーカー氏のサックスセッションは神がかっております。 

自由過ぎるのも程があると。 

もうむっちゃくっちゃにあちこちへ飛び回って、殆どねずみ花火でございまして。

そんなチャーリーパーカー氏が大好きな、これまた敬愛する伊坂幸太郎氏。 小説を読んでいる途中でチャーリーパーカーが好きな事を知り、あぁ引っ張られたなと思いました。

そんな井坂幸太郎氏、店主の敬愛する斉藤和義氏と仲良しだそうで。 合作迄行っております。 そんな斉藤和義氏のベリーベリーストロング。 名曲ですね。

こちらの曲を初めて聞いた時、小説みたいな画期的な曲だなと思ったのを覚えております。

そしたら小説になった。(笑)

素敵な人達が揃いも揃って、良い事ばっかりして、ずるい。 店主も混ぜてくれ。

そんな時、いつも思い出す記録されたシーンがあります。

とある不動産屋のオヤジがニヤニヤしながら言うんですね。

「芦田さんさぁ、良い人間だよね。 良い人集まるよ。 これ絶対なんだけどさ、人はね、同じ人間が集まるの。 絶対。 類は友をって奴だけどね、あれは本当なの。 悪い奴の近くは悪い奴、良い奴の近くは良い奴。 金が好きな奴は金が好きな奴、女が好きな奴は女好きな奴、皆そうやってある年齢から集合帯になっていくんだよ。 芦田さんはさ、良い人集まるね。 だけど気をつけてな、変に悪い奴に近付くと、アンタ悪い奴になるってこともある訳だ。」

あぁ、類は友を、かぁ、、。

当時は若かったのでそう思ったが、オヤジの言っていたことはとてもよく分かる。

逆に、悪くなるなよって言ってた意味も余計に分かる。

オヤジが言うには付け加えとして、最後はさぁ、良い人がちゃんとそれなりに小さな得を持って帰るから、焦んなさんなよ!がっはは!と言っていた。

それもまぁ、そうだなと思う。

だから見紛う事も無く、井坂さん、チャーリーパーカー、斉藤さんを好きなのは、あの人たちがきっと優しくて良い人なんだろうなぁと思ったりするからである。

不動産屋のオヤジの言う道を踏み外さずに、最後まで歩いていきたいもんだ。

隣の道はバラ色に見えるが地獄へ続いているかもしれない、そう思うと、地道が一番だな。

そんな本日は暮れに暮れて深夜12時。 ジャズの音色に溶けたマッカランが美味しい。

しかしあのオヤジ、本当に良い奴なのか?




2022年11月10日木曜日

河川敷ファーザー Vol.2

 冬の夕暮れは、気が早い。

こんなにも早い時間なのに、何だか早く家に帰りたくなるような気分になる。

俊男は6時間目の授業を終え、一人足早に帰宅を急ぐ。 手短に教科書を鞄にしまって、クラスメイトとの一日の終わりの談笑も早々に切り上げ、先ずは教室の出入り口の様子を確認する。

俊男は考える。 よし、ここにはまだ来ていない、あいつらに見つからずに帰るには人気のないルートで学校を出ないと。 だけどその後は、どうすれば良い? 多摩川の河川敷に呼び出されている。 これを無視したら、一体僕はどうなるんだろうか? 僕は一体これから何をされるんだろう? どうすれば良い、恐い、とにかく恐くて仕方ない。

下校を一斉に始めた生徒たちでごった返す下駄箱のエリアを柱の陰からこっそり覗くと、やはり件の不良グループは待ち構えていた。 いや、待ち構えているというより、普段からダラダラとたむろしているのだ。 しかし、どうだろうリーダーである長身の少年、東海君はいないようだ。 

登校した際に予め下駄箱に立ち寄らなくて済むように運動靴を鞄に仕舞っておいたのは正解だった。 

急いで下駄箱には寄らず、職員室の前を通過して正門と逆方向へ走る。 

裏門から遠回りをして普段の下校ルートを外れて帰る。 その場は何とか彼等からは逃れられるだろう。 だけど、その後はどうしたら良い?その事を考えると、まるで宇宙空間に放り出された様な孤独が襲う。 喉の奥の方が詰まる様な気がして嗚咽を漏らしそうになる。

何故こんなにも辛いのだろう、何も悪い事はしていないのに、何故こんな目に遭うのだろう。 その質問をする相手もなく、自問自答が余計に悲しくなる。

体の弱い母親の顔が浮かぶ、また泣きそうになる。 助けて欲しい、だけど母さんは体が弱い、心配を掛けたくない。 

普段のルートから外れた道順で遠回りしたせいで、帰宅が遅くなってしまった。

母親「お帰りトシちゃん、遅かったわね。 何かあったの?」

俊男「うん、友達と喋りながら帰ってたら盛り上がっちゃってさ。公園で喋ってたんだ。」

母親「そう、、友達ってみっちゃん?」

俊男「うん、、」

母親「トシちゃん、母さんね、ちょっと心配でね、怒ってないから本当のこと言って欲しい。 母さんみっちゃんが一人で帰るところ見かけたんだよね。」

俊男「え!なんで知ってるの?」

母親「俊樹さん、お願い。」

俊樹「俊男、母さんは別に尋問したい訳じゃない、ただ心配なんだよ。理由はお前分かってるんじゃないか?」

俊男「分かんない、僕はいつも通りだしなんで急にそんなに心配されなきゃならないわけ?」

俊男は少し険しい口調で俊樹が話し始めたことに嫌悪感を抱く、当の俊樹が嫌いというより、問題の根源の様な、発端となった俊樹の存在に当りようの無い苛立ちを覚える。

俊樹「単刀直入に聞くが、母さんの財布からお金を黙って持っていただろう? それ自体は悪い事だ。 ただね、父さん達は俊男がそれが悪い事だと当然分かっていると思ってる。 お前は賢いからね、それでも持って行ったことが、とても心配なんだ。」

俊男「あれは!もう、、そうだけど、ごめんなさい、、」

俊樹「やっぱり。 お前の良い所は素直なところだ、胡麻化さない。 謝れる。 何か理由があって持って行ったんじゃないのか? もし欲しい物があれば、お前はその為に努力できる子だ。 素直に相談してくるだろ?」

俊男「言えない。 理由は言えないよ、絶対に。」

俊樹「そうか、、、言えない理由があるという事だよね。」

俊樹は自身が思っている以上に、事態は複雑なのかもしれないと、時既に遅しと焦る。 父親らしく、家族を安心させられる言動を体現しなければ。 そう思えば思うほど、脳内の思考回路は機能性を失っていくかのように感じる。

ちゃんと考えろ俊樹、ここではお前のリーダーシップが皆を安寧に導く。 

俊樹「分かった、どうしても言えないならそれはもういい。 だけど代わりにこの質問に答えてくれ。 俊男、お前いじめに遭ってないか?」

俊男は絶句した、余りにも単刀直入、そして自分のプライドがいつかTVで観た廃墟のビル爆破解体の映像の様にあっけなく崩れていく様相を覚える。

俊男「バカにするなよ、俺がいじめられる訳ないじゃん、俺はそんなに弱くない!」

俊樹「お、”俺”って、、お前どうしたんだよ、なんでそんなにムキになるんだ。」

俊樹が呼び止めるのも聞かず、俊男はおもむろに着の身着のままで家を飛び出す、何故飛び出したのか?自分でもよく分からないが、あの場に居れなかったのだ。 

僕だって男だ、僕だって男だ、僕だって男だ! 何度も何度も心の中で叫び続ける。

10回でも、20回でも、叫び続ける、涙が出ようが、いじめられようが、喧嘩が弱かろうが、僕は男だ。 弱くて心配されてたまるか。

負けたくないんだ!

時刻は17時半、日は落ちて、辺りはゆっくり夜へと様相を変えていく。 走る、夢中で走って、走る事に何の解決の意味もないのに、俊男は走る。 何事も無かったように、近くの家から夕飯の支度の香りが漂ってくる。 こんなにも僕は孤独だよと、その家庭にも伝えたくなるほどに幸せそうに見える。

俊男は夢中で走って、途中でスッと何かが胸を通過する。 俊男は追い詰められ、たった14歳と幾ばくかの年月しか生きていない少年の胸に去来する覚悟。

俊男はつぶやく。

「やってやる、、。」

俊男が河川敷に到着する頃、17時45分。 目当ての場所はもう把握してある、神崎橋の下だ。 彼らがたまり場にしている場所、いつもそこに集まってバイクを乗り回している。以前一度呼び出されたことがある。

土手の上から橋の下を遠巻きに観察すると5人位の少年達がたむろっているのが見える。 

俊男を見た少年の一人が叫ぶ。

少年「俊男!おせぇぞ、こっちにこい。」

俊男はゆっくりと土手を斜めに下っていく、その歩みはまるで何かを覚悟したかのように、ゆっくりと、落ち着きすぎている。 自分でもおかしいと思う、死ぬのか僕。


その頃、俊樹と母親も、それこそ俊男以上の気迫で走っていた。

俊樹「母さん!母さんはもういいから家に帰って、お願いだから。 俺が追いかけるから。」

母親「ダメ!絶対ダメ!見つけないと!」

母親の桃子は心臓が弱い、既に不整脈が多発して、発作がいつ出てもおかしくない状況だ。

俊樹「分かった、分かったから少し休んでくれ、俺が必ず見つけて携帯に連絡を入れる。 それまであそこの公園で待ってくれ、頼む!」

息も絶え絶え、桃子は返事をするのが精いっぱいだ。

俊樹は思う、こっちの方向で間違いない筈。 がむしゃらで走ったとは言え、何かのきっかけや行く当てで方向は見出している筈だ、いつも立ち寄る場所、友達と会う場所、集まって話す場所、集まって、、、集まる? あそこか、河川敷の悪ガキ共が集まっていると町会で問題になっていた橋の下。

俊樹は40代後半だ、全力疾走すると膝が軋むように痛む。 痛む膝を気遣いながら思う。

俊男、、父さんの後ろをヨチヨチ歩いてたお前が。 14年もずっと見てたんだ、随分足速くなったなぁ、参ったよ。

続く


店主は父親でもなく、子供とコミュニケーションを殆ど取った事のない生活をしているもんですから、こういった小説では随分と想像力を働かせないと心境を察するに至らないことを痛感してしまいます。

とは言え、父親の姿はずっと背中を見てきたのですが、本当に家族の為に命を張ったシーンを何度か見ていますので、この歳になると父親の凄さというのは十分に理解しているつもりです。

はてさて、俊樹は家族を守り切れるのでしょうか。 

あとがきみたいになってしまいますが、以前、旭川市のいじめによる自殺の事件を知って、店主は相当に心を痛めまして。

その実像に近い被害少年少女の心境と閉塞感、救いのない闇の中を描いてみたいと思ったところがあります。

とは言え、そこに何某かの救いの人、そういったものがある世の中であってほしいとそういった願いも込めた内容ですが、引き続きのお目汚しをお許し下さいませ。

芦田屋店主



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