2023年12月26日火曜日

年末年始スケジュール


いつも芦田屋ブログをご覧頂きありがとうございます。

年末年始のスケジュールの告知になります、予めご了承の程宜しくお願い申し上げます。


2023年12月24日日曜日

キエル魔球 ~種田ホープ件~ その2 接触

おい足田、お前そんなに歩くの遅かったか?」

「ん?ああ、ちょっと足首を痛めててな。」

「お前、まさか。」

「それはない。忌部の一件以来やばい事はもうやってない。」 

「なら良いが、俺が救った命をせいぜい大切に使ってもらいたいもんだな。」

「ごちゃごちゃうるせぇなぁ、お前は。 ちょっと人助けしてただけだよ、小姑みたいにぶつぶつ言わないでくれ。」 

足田は黒いフルフェイスヘルメットを小脇に抱えて、全身真っ黒な服に真っ黒なキャップを被っている。 胸ポケットに無線機を入れているのか、長さ5センチほどのアンテナが出ている。 

「幸田、お前ここまで電車で来たのか?」

「そりゃ普通、蒲田くんだりまで来るなら電車だろう。 電車は良いぞ、効率面、費用対価的にみても時間に正確且つ経済的だ。 おまけに路線と時間を選べば綺麗なねぇちゃんがいっぱい乗っていて目の保養にもなる。」 

もう一人の小太りの小柄な幸田という男は緑と黒のチェック柄シャツにジーンズ、真っ黒なボサボサのロングヘアに黒縁メガネだ。 見た目は野暮ったいが、顔は整っており男前であるが、それ以外で全て台無しという見た目である。

一見して奇妙な二人組は足早にとあるラーメン屋店の前までやってきた。

看板にはこうある。

"種田ホープ軒"

「おお!これか、これが噂の宇宙人が経営するラーメン屋。 本当にあるのか。」

幸田は看板を見上げて感嘆の声を上げた。

「バカバカしい、お前本気で信じてるのか? 何度も聞くが、仮に宇宙人だったとして、なんでラーメン屋なんだよ。 あり得ないだろ普通。」

「足田、宇宙人のメジャースタンダードとは何だ? その普遍的且つ整合性の取れた一般論とは何処の世界の一般だ? 宇宙人はラーメン屋はやらない? そんな事は逆に言えば奇妙だ、やるかも知れないし、やらないかも知れない。」 

「あー、分かった分かった、お前の講釈はもう聞き飽きた。 とりあえず入ってラーメン食おう、腹が減った。」

「待て待て、もう少し店全体を観察してみよう。」

そう言って幸田は店の前を通る片道1車線の道路の反対側からスマートフォンを向けて写真を撮影する。

足田は呆れて、その様子を眺めていると、店の中から少し気の立った視線を感じる。

そちら側を目線を意識しない様に細心の注意を払って、視界の端に入る人物を捉える。

調理用の白衣、店主か? 客も一人いる様だ。怪しまれているのか、こちらを凝視しているな。 まぁ、客観的にみて店の前で彷徨いていれば怪しいか。

「おい幸田!いい加減にしてくれ、早く店に入ろう。」

「おお、分かった、食いしん坊の足田くん。」

幸田が赤い暖簾を掻き分けて、アルミサッシの引き戸をガラガラと開ける。

中には薄らと湯気が立ち上り、何かを刻んでいる店主らしき老人が正面に一人。 

向かって右側のカウンターに中年の男が一人、ビールをグラスに半分程注いで片手に持っていた。

店内にはテレビが設置されており、左のトイレ手前には本棚があり、漫画本が単行本で綺麗に整理された状態で整列していた。

カウンターの天井張り出しには手書きと思われる品書きが陳列してあり、紙の朽ち具合から見てかなりの年数を感じさせる。

幸田は一瞬でぐるりと目を回し、店内の様子を観察する。 店主と思しき老人は目つきが鋭い、だが威圧的なものでは無く、単なる人生の年季といったところか。 

だが、気になったのは中年の男。 この男、妙だ。 俺たち二人がドアを引いて入ってきた時点で、カウンターに座った位置から一瞬たりとも、ぴくりとも首も顔も目線も動かさなかった。 一貫して前だけを見ていた。

通常、二人きりの空間に、真後ろから背後に人の気配を感じて身体のどの部位も不動である事は稀だ。 一瞬見てしまうか、首が少し動く。
妙だ、まるで来る事が分かっていたみたいだな。

二人はゆっくりとカウンター席に座る。

店主が口を開く。

「いらっしゃい。お水はセルフだからね、そっちのコップ使って自由に飲んでね。」

そこで初めて店主が少し微笑んだ。

足田が頷いて、立ち上がって給水器に近づく。 その途中、中年の男の背後を通る。 

足田は感じる、この男、かなり危険な匂いがする。 こいつ、血生臭いな、悪人か? いや、悪人というか、、何か違う。 

足田の直感は理屈ではなかった。 忌部という新宿を拠点とする半グレ団体のリーダーを復讐の為に殺害する目的で、数年に渡り単独で半グレグループと死闘を繰り広げた人物である。

結果、忌部との直接対決によって環状8号線の殺し合いのレースに敗北して死に掛けたが、間一髪の所で、相棒の幸田の助けにより一命を取り留めた。 

生半可ではない反社との抗争の中で培った危険な人間を嗅ぎ分ける嗅覚が、その男の背後を通った瞬間に、頭の中で警報が鳴り響く。

こいつはかなりヤバい。

緊張の糸を切らさぬ様にしながらも、平静を装って、そのまま何食わぬ顔で水を汲んで幸田の隣にドスンと座る。 

「ほい、水だ。」

「おう、ありがとよー。」

幸田も平静を崩さない。 裏の顔では天才ハッカーの名を馳せる危険人物だが、表の顔はただの介護施設業者向け専門のシステムエンジニアだ。 足田が半グレとの抗争を続けていた際には偽造免許や偽造ナンバー、果てには偽の戸籍まで用意する裏社会への精通ぶり。 

最終的に忌部を仕留めたのは幸田と言っても過言ではなかった。

「オヤジさん、俺チャーシューメン。」

「じゃあ俺は、、、塩ラーメンで。 卵一個トッピング。」

あいよ。

店主が麺を茹でて、調理を手早く開始する。 流石に手際は良い、ここ最近脱サラして始めましたというレベルではない。

しかし、幸田は思う。 この男、話によれば元プロ野球選手。 これが、恐らく種田か、、。 果たしてこいつが宇宙人なのか?
ただのジジイにしか見えんな、しかし、消える魔球を投げたという伝説もある。 独自の調査によると、その消える魔球を巡っては当時かなりの揉め事もあったと聞くが。

直接このジジイに聞いてみるのも悪くないが、
それに際して気になるのはこの隣の男だ、恐らく足田もそれが気になっている筈。

さっきから一度も、ピクリとも動いていない。ビールも飲んでいない、ただ、持っているだけ
。 

唐突に店主が口を開く。

「山ちゃん。 今日はもう帰ってくれないか。」

水を打ったように店内が静まり返る。

少しの沈黙の後に、中年の男が何かを思い出したかの様に、まるで完全放電していた電池を、新品に入れ替えた後の壁時計の様に動き出した。

「え、おやっさんまだビール残ってるんだけどなぁ。 ナイター見ていきたいんだけんにょ、帰らないとダメ?」

「悪いね。 多分この人達ワタシと少し話があるんだと思うんだよね。 オタクら何か聞きたいんでしょ? そんな顔してるよ。」

「お、話が早いねオヤジさん。 まぁそういう事。 いやマスコミじゃないよ、俺たちはテレビでもない。 ただの好奇心なんだ、ただ本当のところは野球に全く興味は無い。
知りたいのは、"この店に宇宙人がいるらしい"という情報を聞いちゃったもんだから、真相を確かめに来たってわけ。」

その瞬間、中年の男の全身から奇妙な音が鳴り始める。

キキキキキ!

足田がカウンターから素早く立ち上がり、戦闘体制に入る、右手には既に特殊警棒が握られていた。

なんの真似だオッサン、何を鳴らした!

足田は叫ぶ。

「山ちゃん!今日は帰ってくれ。 後はワタシの方で上手くやるから。」

「おやっさん、彼等は少し知り過ぎてやしないかい? この前の半魚人の小僧とは訳が違う気がするでゴンス。」 

「半魚人じゃなくて半人前な。まぁ、山ちゃんも落ち着いてくれ、昔の約束を思い出してくれ。」

「ヤケクソ?ああ、それならヤケクソにゃ、分かってるでげすよ。 クニヤマのヤケクソ守るね。」

幸田は三者の様子を繁々と眺めている。

一人ニヤニヤとしながら幸田は思った、こいつはとんでもない店に来ちまったな、マジで宇宙人に会えるかも。








長い間更新できずにいたキエル魔球の続きをやっと更新したのだが、流石に間が空きすぎて書いている当人がどんなストーリーだったか忘れかけている事態に。

構成も微妙にあやふやになって思い出すのに時間が掛かって余計に書く意欲を阻害してしまったがなんとか強引に続ける。

本業のスケジュールがタイトすぎて余力が全くでない状況が結局1年続きで今年もあと残すところ僅か。

実は先日書いた河川敷ファーザー一家の続きも書きたくなって、事件に巻き込まれ体質の俊樹の別の活躍を描きたくなってしまい、そっちにも気を取られでひっちゃかめっちゃかであった。

とは言え、種田と國山の戦いはどういう着地に持っていくべきか、マウンド上での戦いも描く予定ではあるがその水面下で繰り広げられるマウンド外での二人の戦いも楽しみである。

そこへ別雑誌に掲載した小説で活躍した、個人武装した半グレ狩り(現在ボランティア人助けの人)足田と、天才ハッカー兼情報屋 幸田の危険なコンビも乱入してしまい、我ながら思うに素人のくせに難しい事を無理やりやろうとしてずっこけるパターンである。

まるで習いたてのギターを掻き鳴らす高校生の様である。

だがそれでいい、粗削りから粗を取って仕上げていく。それでいい、それが芦田流である。

キエル魔球 ~種田ホープ軒~ その3 種田と國山

「東京外国為替市場の円相場は高値で横ばいになっています。 1ドル110円45銭~47銭の高い円高水準となっており、日本 製品の競争力低下が懸念されいます。」 店内の天井隅に設置されたテレビから為替のニュースが事もなげに ツラツラと流れている。 幸田は素早くざっとの計算で自身の外貨...