2023年5月28日日曜日

キエル魔球 ~元実況アナ 駒田 その1~

鬱蒼と茂った竹林の麓に見える家が一軒見えてきた。 竹林は地震に弱いと聞いた事があるが、駒田氏の家屋の裏は正しく竹林の急な傾斜になっている。 土砂災害は大丈夫なのだろうかと加藤は他人事ながら心配になってしまう。

駒田氏の自宅に限らず、都心を離れて地方の取材に行った際などは、いつも山の麓にある家々をぼんやり見やりながら、土砂崩れの被害は起きないだろうかと、勝手に心配したりしてしまう。

きっと家主からすると余計なお世話だと言われてしまう様なお節介な心配だが、実家の立地を考えると、他人事ではない様な気持ちになってしまう。

駒田氏の電話での対応は当初、至って歓迎ムードであったが、國山選手の名前が出た途端に少し雲行きが怪しくなった。

「あぁ、國山選手ですか、私で何かお役に立てるかどうか。 他の選手ならともかく、國山さんは特に知っている事が少なくて。」

「その旨重々承知しておりますので、是非些細な事でも構いませんので教えて下さい、どうか宜しくお願い致します!」

「ええまあ、関君のご推薦とあらば、出来る限りではありますが、お役に立てる範囲でお答えさせて頂きます。」

そんなやりとりの後、失礼かと思いながらも、加藤は駒田の自宅までその日の内に突撃取材を強行する段取りを採った。

とても古い家屋なのか、昔ながらの職人大工が田舎の一軒家らしく設計した木造建築の広く立派な一軒家だ。 玄関は引き戸になっており、ガラスが懐かしい粗目の細工が施されており、建て直す前の実家で過ごした少年時代を思い起こさせる。

雨戸は木製でこれもかなりの年代物だ。

「ごめん下さい、いらっしゃいますか? 中日スポーツの加藤と申します!」

奥の襖がサラリと動き、中から見た所70代前半と思わしき老人がソロソロと出てきた。

細身で華奢ではあるが、背中は伸びて凛々しい。

着ている物も部屋着ではあるが、清潔感があり、一流の実況アナウンサーの引退後のご隠居姿としてはとても感服できる物があった。

「あぁこれはこれは、加藤さん。 遠い所までご苦労様でした。 改めまして、駒田と申します。 お疲れが出たんじゃありませんか? なにせ東京から埼玉の山奥までだと道も混んでしまうし、運転大変だったでしょうに。」

「いえ!全く問題なしっす。 東京からだと秩父迄せいぜい2時間程度でしたから。」

「そうですか、加藤さん見た所、失礼かもしれませんがまだまだお若いですよね? いや、お若い方は羨ましい。 体力があるというのは、本当にありがたい事ですよ。」

「はい、自分は今年で28歳になります。 そうですよね、自分も10代の頃より体力が落ちてきたような気がしてまして。」

「あぁ、それはね、そうかも知れませんねえ。」

駒田が言う所の体力差という物と、加藤が感じる体力如何の話に齟齬を感じながらも、やはり齢70も越えた駒田はサラリとその意味合いのズレも受け流し、初対面で感覚的な物事の差をパズルを組み立てる様に、奇麗に埋めて行ってしまう。 歳の差44年の経験値の差は如実である。

「まま、どうぞ奥へお上がりください。 お茶とコーヒー、よく冷えてますよ。 どっちも出しますからお好きな方で。 ついでに昨日買っておいた回転焼きがありましてね、一緒に召し上がってください。」

「あ、どうぞお構いなく!しかし、回転焼き?回転焼きって何ですか?」

「ああ、回転焼きってね、関東では今川焼でしたね。私の両親は関西出身で、関西では今川焼の事を回転焼きと言いましてね、私は物心付いたころから両親から回転焼きと刷り込まれたもので、今でも回転焼きと言って食べないと、気持ちが盛り上がらんのですよ。」

「そうなんですね、自分は出身が千葉なので、全く聞いた事がありませんでした。」

「さぁ、それより國山さんの話ですよね、しかし加藤さんも物好きですね。 もうずっと昔の選手ですよ。 とうに亡くなられていますし、そもそも彼の事を安易に語って良いのかどうか。」

「どういう事ですか? 語って良いかどうかというのは。」

「ああ、それはね。私自身はね、彼は死んでないんじゃないかと思ってる節がありましてね。 何と言ったらいいか、言葉にするのは難しいですがね。 彼は死なない人ではないかと。 人っていうか、何というか。あの人に初めて会った頃からそう思ってましてね。」

「一体どいうことですか? 死んでないって。確かに國山さんは故人であると、法的にも社会的にも認知されてますが、、」

「それはそう、確かに。 だけどね、会ってよく話した人にしか分からないんですよ、あの人はね。 そう、初めて会った時の事ですがね、球場の関係者専用駐車場で偶然ばったり会った事があったんですよ。 丁度その年、彼は三冠王を総なめして天才バッターの名をほしいままにし始めた頃でした。 私は嬉しくてね、話しかけてしまったんですよ。 いきなり。」

國山選手が突如彗星の如くプロ野球界に現われ、2年目にして三冠王を達成したシーズンの終わり頃。

偶然、選手控え室を後にした國山選手が、時を同じくして、帰りの車に向かう駒田が偶然会った時の事。 國山の後姿を見かけた駒田は嬉しさのあまり、野球関係者でありながら、一般人の様な反応をしてしまい、思わず國山を呼び止めてしまった。

「國山さん、お疲れ様でした! 今年は素晴らしいご活躍で、もう感動しっぱなしです。 すみませんお帰りの所話しかけてしまって。 申し遅れました、私テレビ放送の実況中継を担当している駒田と申します。」

「にゃ?」

「え?」

「お前誰にゃ?」

「??ああ、失礼しました、私アナウンサーの駒田と言います」

「駒にゃ?それで何の用だこのガリ勉アナウンサー。」

「え!いや、すみません、ごめんなさい」

「ん?ちょっと待てにゃ、少し翻訳デバイスが、、いや、俺の頭がおかしい様だ。」

そう言って國山はコメカミを自分自身で恐ろしい程にパンチする。

「頭がおかしいって…國山さんあなた一体」

「いや、これで良い。 失敬、大変失礼な事を言ってしまいましたな。 初めまして、駒田君。 國山です。 お褒め言葉、ありがたく頂戴しておきますよ。」

「はぁ。いえ、お気になさらず。 それにしても、驚異的な記録づくしですね、今シーズン。

私もそれなりに凄い選手の方々の記録を直に見てきましたが、とても人間技とは思えません。 特にシーズン終盤で本塁打59本は王選手を越えて日本記録ですよ、とんでもない事です。」

「ああ、それはそうみたいですね。 まぁ本当はもっと打てるんですが、あんまりやり過ぎると怒られるというか。 一応研修の一環でもありますから、その、バーブルース?さんですか。 その方を越えないようにと、上司からお達がありましてね。」

「!?ちょっと待ってください、色々とよく分からないです。 バーブルースって、あのベーブルースの事ですか? 何を仰ってるんですか? どういう事ですか? もっと打てるって。 本気じゃないと? 」

「あ、いや、本気ですとも。勿論、あんな白い玉っころ位、棒キレを振れば、まぁパコンと飛びますよね。」

「國山さん、あなた一体さっきから、私をバカにしておりれるのですか!私だって野球の事は、素人より多少は分かりますよ。」

「あ、人間が怒った、まいったにゃ、人間はすぐ怒るにゃ」

「もういいです、失礼します」

駒田と國山の出会いは良いものでなかった。

「加藤さん、まぁ信じがたい様なやり取りですが、ざっと初めての会話はそんな様だったと記憶しています。」

「冗談を言っておられたのではなくて?」

「今思えば、あれは特にふざけてる訳ではなかった気がします。 何というか、意思疎通が通じないというか、変な感じでしたね」

「國山は宇宙人ではないか。 それですか?」

「まぁ、所以はそこにあります。 ただ、彼の肉体も精神も、客観的に見て普通の人間でしたから、明らかな見た目の違和感は無いですが。 ですが、もっとも凄かったのはやはり、試合、彼のプレーですね。 物凄いプレーだった、本当に。 その中でも、特に今でも忘れられないゲームがありました。 折角なので、そのゲーム内容をご説明しておきましょう。」

「是非!宜しくお願いします。」

加藤はもはや駒田の二の句が継がれるのを、溢れんばかりの期待と逡巡を抱えつつ、固唾を飲んで待つ、且つて実在した、人間ではないと評される驚異と伝説に触れる為に。




アナウンサーと野球選手がそもそも接見する機会などあるのかどうか、そもそもそこからして知識がないので、色々と調べてみたら女子アナとプロ野球選手が出会う為の会が存在することを知ってしまい、下世話な知識がまた一つ増えてしまったので早々に消去したい。

最近というか、この3年程ほど良く意識している事がある。

お世話になった人に出来るだけ恩返ししながら生きていこうと思って、無理のない所で返せるだけ返すように努めている。

どうだえらいだろうという事ではなくて、受けた恩は借りた金と一緒でお返ししてプラマイゼロだと思うので、借りている物はやはり返すのが当然だと思うようになった。

恩返しして、その人がちょっとホッコリすると店主も嬉しい。 

反面、芦田屋に大損害を与えてしまう人も現れる様になり、まぁそれに驚いて腹を立てる程、店主小物ではありません。一応ですが、そういうのも原子の動きとして、経験上知っているんです。

それを踏まえて動いているので、なんくるないさ。 波照間島が俺を待っている。

國山選手のキャラを考えすぎて店主自身が変になりそうです。

おあとが宜しい様で。




2023年4月26日水曜日

キエル魔球 ~中日スポーツ 加藤~ 

窓から入ってくる心地よい風が頬を撫でてくるので、ついついのほほんとした気分になってしまうが、現実として自分の置かれている立場は、デスクの前に立たされたまま、現在進行形でキャップから執拗な叱責を浴びている現実に引き戻されて何故か実家を思い出してしまう。

 実家の両親は元気だろうか? 両親の共通の趣味である畑で何かしらの野菜を収穫している姿を思い浮かべて、元気かどうかわからないまま、元気な姿を期待を込めて加藤は想像する。

 「加藤! お前人の話聞いてんのか?俺が話してるんだから俺の方を見ろ!」

 「は!すいません。」

 加藤が中日スポーツ新聞社に入社して4年目、入社時は競馬担当に配属され、持ち前の物怖じしない性格を武器に、ベテラン騎手から引き出した裏話をネタに昇華して次々と話題の女性美人騎手の公私をすっぱ抜きで書き連ねて紙面を盛り上げた。

 その為にベテラン騎手に御馳走したキャバクラの領収書の金額は小型の車が買える位である。

 それもこれも、全ては結果を出して、加藤自身の希望担当部門であるプロ野球担当記者になる為であった。

 キャバクラ接待の成果かどうか、加藤自身は釈然としないが、それはともかく今春から念願のプロ野球担当記者となり、担当球団はお膝元となる中日キングスであった。

 「いやいや、すいませんじゃなくてさ。 説明して頂戴よ。 先週の記事! 何なんだよあれ。

なんで今更2面で20年前に引退した選手の功績にフォーカスする必要があるの!」

 「え! 田町選手の3塁打本数記録ってヤバくないですか? 121本ですよ、福本選手でも115本だったんです、3塁打ってある意味本塁打より難しいと俺思ってるっすから。」

 「知らねぇよ、何本でも良いよ!マニアック過ぎるんだよ、なんなんだよお前。 3塁打マニアか!三塁打が好きな奴そんなにいねぇだろ!」

 「マニアって訳じゃないですけど、そういう隠れた歴史的な部分に光を当てたいなと思いまして。」

 「いやいや、自己満足だよ。お前今ウチが立ってる窮地がわからない訳じゃないだろ? 俺達そんな悠長な立場じゃない訳よ。 部数稼げない記事なんて、記録だろうが美学だろうが、食えなきゃ意味ないのよ。」

 「はぁ、、それはまぁわかるんすけど。 やっぱ現役も凄いすけど、過去の偉人というか凄い人の功績が、、」

 「うるさいなもう、ハッキリ言って野球にお前を引っ張ったのはスキャンダル持ってきて欲しいからなのよ。 ウマの時みたいにやって頂戴よ。 ほら、例えば広島アローズの田島選手の不倫の真実とかさ。」

 「え!それ野球関係なくないっすか?」

 「ごちゃごちゃうるさいよお前!加藤!さっきからなんだ、何なんだごちゃごちゃこの野郎!」

 そこへ野球担当7年目の関が間に入る。

 「キャップ、すみません、その辺で良いじゃないですか。 加藤も頑固で言い出したら聞かないから。 このご時世、部下でも怒鳴るといい事ないですよ。」

 「ああ、、まぁ。とにかく目を引く記事をだな、現役から引っ張って来いよ、加藤。 関ちゃんからも後でよく言っといてよ。」

 「はぁ、分かりました」

 関が加藤に天井方向へ目配せをして言う。

 「加藤、ちょっと一服しに行こうか。」

 加藤と関が、中日スポーツ社の入るビルの屋上の隅に設置された喫煙所で並んでタバコを嗜む。

 「この喫煙所も最近使う奴少なくなったよなぁ、今時タバコなんて吸ってるのは時代遅れっやつかな」

 「タバコ美味いっすけどね。 俺は死ぬまでやめないっす」

 「加藤お前変わったな、ウマ担当の時はそんなじゃなかった。 結果を出す為ならなんでもやってたじゃない。」

 「あれは、やっぱ希望の担当入りするには結果を出さないとって思いまして、がむしゃらってやつです。 あんなに上手くいくとは思わなかったですけど。 政治家がやってる手法を真似たらたまたま上手く行った感じで。」

 「なるほどね、で、今は念願の野球担当になったから、今度は本当に自分が書きたかった事を書くと。」

 「そうすね、やっぱり今のプロ野球を知るには過去から紐解いていかないといけないと思うんですよ。」

 「まぁそれも正論だと思うよ、ただな、やっぱり俺たちの仕事は好きな事を書くだけじゃダメだ。 どんなに良い記事でも、読まれなきゃただの自己完結に過ぎない、新聞の場合、読まれるって事は売れたって事だ。 そこはどうしてもやりたい事の先には立たない事もある。 だから、キャップの言いたい事も清濁合わせ飲まないと記者としてはやっていけない時もあると思うぞ。」

 「はぁ、売れたらなんでも良いんすか?」

 「お前同年代と比べて年収それなりに良い方だろう? その金、新聞が売れてこその年収だ。 良いも悪いもない、貰ってるならそれに報いるべきだろ。 それとも年収下がっても良いのか? 」

 「いや、それはまた違う話しで。」

 「違わない、そりゃやりたい事やれて良い給料なら言う事なしだが、世の中そんなに甘くない。  と、まぁ、ここまで言っといてなんだが、俺はお前の記事は嫌いじゃない。 1面なら話にならんが2面、いや3面の端なら連載しても良いと思ってる節もある。 お前、今日の記事を見る限り過去の伝説的選手をもっと掘り下げたいんだろ?」

 「そうですね、例えば國山選手ですかね、知れば知るほど謎ですよねあの人。」

 「あー、亡くなった天才バッター國山さん。 あの人は宇宙から来たって噂もあるからね。 ま、キャップは俺がなんとか説得しておくから、続き書いてみな。 伝説の選手コーナー。 その代わり俺を楽しませてくれ」

 「マジすか関さん。関さんにそう言ってもらえたら安心感半端ないです。」

 「そうか、はは。 國山選手の事なら、多分元実況アナの駒田さんという人が当時のテレビ中継で打席をよく見てアナウンスしてたと思うよ。 その人のメールアドレスを送っておくから連絡してみな。 一応関の紹介ですって言っとけ。 多分取材は受けてくれると思うよ。」

 「本当ですか、良いんですか?そこまで肩入れしてもらって。 早速アポ取ってみます、國山選手の伝説のシーズン打率4割の真実に迫ってみせます。」

 加藤は半分程度吸ったタバコを灰皿のヘリで切り落として水の中へ落とす。

 この件に関して加藤には考えがあった。今の現役選手達にフォーカスする事は、勿論販売部数を稼ぐ上では不可欠だと思う。 だが、過去に拘る訳ではないが、過去の偉大な功績を残した先人達の野球への思いや、数多の戦いが風化していく事を、加藤は周囲にいる記者より強く残念に感じている。

 実際に風化してきているのかどうか、それは個人の興味の程度による所も大いに関係があるが、このプロ野球界全体で考えた場合、世代が変わっていく以上は興味のある世代とそうでない世代交代による実質的な風化は避けられない。

 ならば、かつて日本の国民的な人気スポーツで、自らも少年時代から熱狂した昔々のプロ野球の過去に光を当て続ける記者でありたいという情熱こそが、スポーツ記事を書き続ける原動力なのだと加藤は思う。

 その上で過去の偉人である國山選手はあまりにも有名だが、すでに故人であるが故に、本人からの談は聞き取りできない。 

 その上、その國山氏のプライベートは普段から謎に包まれており、生前の彼の行動パターンや練習風景を知る人は殆ど居なかったらしい。

 ついたあだ名が宇宙人。 本当に宇宙人ではないかという噂が出る程に変人でもあった。

 そういう事なら現在も存命である、國山選手の近しい周囲の人間関係から、あれだけの功績を残せた裏を取っていくべきだろう。

 先ずは関先輩に紹介してもらう駒田元アナに直撃してみよう。

 "宇宙人"とまで呼ばれた天才バッターは当時どんな野球人生を送ったのか? これまで何度も特集は組まれてきた人物だが、まだまだ分かっていない事も多い筈。

 関がタバコを吸い終わり、吸い殻を灰皿へ落とす。

 「さぁ何かを企んでいる加藤君、午後も頑張っていこうか。」




今月もギリギリになってしまったがなんとかキエル魔球シリーズ第2話まで。 果たしてほとんど休みの無い状況でここまでして書く必要があるのかどうか疑問に思うのだが、やりだしたことは最後まできっちりやり遂げたい。 

非常に店主にとってはハードルの高いストーリーで想像だけで全て書くことはもはや不可能で、割としっかりした下調べが必要性を帯びてきて、途方もない時間を要するようになってくる。 本来であれば取材が不可欠なシーンもかなり出てくるが、そこは想像力でファンタジー側に寄せていくしかない。

ますますとんでもない事を書き始めてしまったと思う後悔と、キエル魔球を投げた種田と國山の秘密に迫る自分の楽しみとの両方が織り交ざっている心境である。

本業がおろそかに出来る訳もなく、非常に沢山のご依頼を頂いているので、そこもこなしつつ、バイク屋のオヤジが書く小説、一味違うなと言わせてみたい。

そう、ここはあくまでもバイク屋のブログの一節なのであるからして、小説の中に多少バイクの露出も検討している。

こういった活動の中に、店主にしかできないバイクへの愛情表現の形を探求しており、普通ではない物、You Tubeでは店主のマイノリティ魂は発揮できないので、こういった奇妙な独自のスタイルはこれまでもこれからも変わらないと思う。

心臓が息の根を止めるまで、アウトプットし続けろ。 誰にも似てない、独特の道をゆくのだ。




2023年3月16日木曜日

キエル魔球  ~種田ホープ軒~

キエル魔球


プロローグ 

黄色い服装が目立つ観客席から湧き立つ声援。
満員の甲子園球場のアナウンス席で、野球中継アナウンサーの駒田が鬼気迫る実況を繰り広げる。

「何という劇的なゲームなのでしょうか、セリーグ王者を決めるこの試合。 9回裏阪神ブレイブスの攻撃、中日キングスが1対0でリード。ツーアウト、ランナー1塁、カウント2ストライク2ボール。 守るのは中日キングス。 バッターは國山、ピッチャー先発からここまで投げてきた種田。 岸本さん、ここまでやはりほぼ完全無欠の投球を続けた種田選手、やはり次の球もキエル魔球でしょうか?」

「やはりそうでしょう! 國山選手に対して、種田の他の球種ではとても太刀打ち出来ないでしょう。 種田でなくとも、打率4割3部の國山にとってキエルマキュウ以外は通用しないと思いますよ!はっきり言って種田のもう一つ球種ストレートはこれまで残念ながら全く結果を出せていませんからね!」

「そうですか、ここまで消える魔球でノーヒットノーランでしたが、9回裏1番バッター樫本に対して痛恨のデッドボールを出してしまい、迎えるは、打席に立てば半分近い確率で出塁出来る、もはや神の領域と呼ばれる4番國山選手、流石の國山選手もキエル魔球相手にこの回まで快音は聞こえてません。 一方、唯一の武器である消える魔球を使う種田選手、逆転圏に入ってしまうランナーを出し、苦しい展開になってしまいました。 さぁ、キャッチャーからサインが入ります。 種田、首を縦に振った。 決まった様です。 投球モーションに入ります。」

ピッチャー種田は投球モーションに入り、超人的に長い指を赤いボールの縫い目に決まった角度に這わせて手首の力を抜く。

必要以上に大きく身体を捻り、後方へ振りかぶって、サイドスローに近いモーションを行い、血管が破れるのではないかというくらいの全力でボールを全身全霊で投げ放つ。

その瞬間、球場全体が水を打った様に静まり返り、時が止まる。

球は種田の指の腹を転がる様に回転して手を離れ、バックスピンを繰り返しながら上下左右に揺れる、揺れて、ブレて何処へ行くのかわからない様な不規則、不自然、不安定な軌道を取りながら、丁度バッターボックスとピッチャーマウンドの真ん中辺りで"消える"。

國山のバットが神がかったスピードでスイングされる。

甲子園球場が大歓声に包まれる。

種田は思う、やっとこれでクソッタレの野球人生におさらばだと。


種田ホープ軒

大田区の蒲田にあるラーメン屋の赤い年季の入ったテーブルの上にビールの中瓶が2本並んでいる。 グラスには半分程度のビールを残して、飲みそうで飲まない中年の男が、テレビの野球中継に目が釘付けになっている。
隣の席では20代の若者が、無我夢中で麺を啜り、左手に箸、右手に蓮華を持ち、スープと麺を交互に口にかき込んでいる。

「いやーダメだ!監督もうダメだよ、スタミナ切れだよ、変えてあげなきゃ…ダメだこりゃ。
ねえ、おやっさん、そうでしょ? いくらエースだって言ったって、抑え投手を育てられてないからこういう無茶な使い方しなきゃいけなくなるんだよ。 ねえおやっさん。」

聞かれたラーメン屋の店主は苦笑いだ。

「おやっさんならどうする? こんだけ後半撃ち込まれてボロボロな奴に、それこそエースに無茶させるかい?」

店主は黙々と餃子を皮で包みながら、答える。

「うーん、どうかなぁ、投げさせて欲しい時もあるしねぇ、色々心配で投げたくない時もあるしねぇ、どっちだろうねぇ。」

それを聞いていた若者が食を止めて、尋ねる。

「なんで山さんはさ、ここのおやっさんに野球の事そんなに聞くの? おやっさんは野球に詳しいわけ?」

「バカガキかオメェは、この人は昔プロだったんだよ、わかる? プロ野球選手! 知らねぇか? 投手種田と言えば、アレだよ、あれ、キエルマキュウ!」

「えー!おやっさん野球選手だったんすか。すげぇ、知らなかった。 つーか、なんすか、キエルマキューって。」

「ノータリンのボンクラガキだなお前は、消える魔球だよ、冗談抜きで球が投げた後に消えたんだよ。 そりゃあお前、30年前の伝説だよ」

「え!マジすか、消えたら無敵っすね、絶対打てないっすよ、エモい。」

「あ?エモ?まぁとにかくだ、種田のおやっさんは昔は伝説の男だったんだよ、今はこんなラーメン屋、、ああ、すまねぇ、美味いラーメン屋の店主だけどな!」

そこでやっと種田が口を開く。

「あー山ちゃん、もうその辺で勘弁して頂戴。 あんまり野球は思い出したくないんだよ」

「え、おやっさんでも毎晩野球中継テレビで流してるから、俺はてっきり今でも野球好きなのかと思って」

「うんまぁ、野球はね、今でも好きだけどね、いろいろあったから。」

若者は言う。

「何があったんすか?」

種田が口を挟む間もなく、中年の男が開口一番代弁を勝手にしてしまう。

「あぁ、そりゃお前聞くだけ野暮ってもんだよ、考えてみろ、プロの世界で、あいつらガチンコで死ぬ程練習して、厳しい競争の中でプロになって、そこからお前、更にレギュラーの座を争って、なんとか食っていくわけだろ? それも相手は全員日本全国からの野球天才児の集団の中で勝ち残った連中だぞ
高校野球だってそうだ、予選を勝ち進んで、甲子園に進むだけでもとんでもない事なんだよ、更にプロになる連中はその中のほんの一握りだ。
プロ野球の世界でも全く活躍できずに引退していく奴もいる、2軍から上がれずに終わる奴だっているわけだ。
それを球が消えるというとんでもない天賦の武器を持ってしまったんだ、周りでは色々起こるだろうよ。 昔はインチキ投手なんて揶揄する連中も居たよなぁ、一度は科学的な検証までどっかの大学研究所の偉いさん巻き込んでやってたもんなぁ。 なぁ、おやっさん。
要するにインチキしてるんじゃないかって、世間が騒いだのさ。」

「うわー、超大変そう、オレ無理っすわそういうの。 だっておやっさんインチキしてなかったんでしょ?」

「そうだ、この前教えてくれたけど、おやっさん自身、なんで消えるのか、自分でも分かってなかったんだってさ。 おやっさんはおろか、世界中が注目して、みんなこぞって研究したけど、結局分からなかった。 んで、一番凄かったのは最後の試合。 種田vs國山だよなぁ。 ねぇ、おやっさん。」

「あぁ、國山さんね、凄い人だったねぇ、生きてれば65歳になるのかなぁ。 最後にあの人と戦えて良かったよ」

「なるほど〜ライバルってやつっすね!いいなぁ、オレもライバル欲しい〜!」

「このポンコツクソガキ、無職のお前にどうやったらライバルが出てくるんだよ!仕事しろ仕事!」 

「それもそうっすね、オレおやっさんの店で修行しようかな。」

「うん? あぁ、やってみる?良いですよ、今ワタシも引退したくて後継考えてたしねぇ。 まぁ、本気なら。」

種田は微笑みながら言う、無職の若者の無邪気な世間知らずさに、少しホッとする。

種田は齢66歳になった今でも考える事がある。
結局の所、あの消える魔球というのはなんだったのだろうか?

あの球が投げられなかったら、自分の人生はどうなっていただろうか。

今でも思う、國山さんなら答えてくれるんじゃないかって。続く





なかなか小説を書く時間を捻出するのが至難の業になってきて、頭の中でストーリーだけが構築されていく日々が続きましたが、何とか着手まで。
着手したのは良い物の、少年野球をやっていた頃から31年も経ってしまい、野球のリアルな部分を書くのがとても難しい。
今でも大きな公園に行ってみると、少年も、大人も、一般に貸し出ししているグラウンドで野球をやっている姿を遠巻きにぼーっと見ていたりする。
今、思いっきり球を投げたら肩がおかしくなるのかぁとか思ったりする。
自由奔放に転がる白いボールに、だだっ広い場所、真ん中に立ってみると、何かの演劇の舞台の主人公になったような気分になったりする。
丁度大谷選手が大活躍しているWBCも相まって、野球の話は書いていると結構面白い。
大谷選手も超人である、それはそれで現実世界の超人である。
しかしながら、ここで出てくる種田は、超人ではない。 ただ妙な球をたまたま投げられるだけの、他は全て落第点の貧弱な投手。 彼がキエル魔球を交えて過ごした人生は幸福と苦悩に満ちていると思う。
きっと、もしキエル魔球を投げる選手がいたならば、きっと幸福ばかりではないだろうと。
そんな小説である。




2023年2月27日月曜日

滑り込み

 滑り込みもいい所である。

月一回の更新をモットーにしておりましたこの町工場の夕日ですが、いよいよ途絶えるかという所で強引に本日時間を作って書く事に致しました。

本来はお見積もりの提出が多く溜まっておりまして、その他メールの返信、ラインの返信、SMSの返信、電話の折り返し、数え切れませんが、本日の優先順位を一気にブログへシフトしてみました。

遠くを見れば、今宵も心の中に真っ白な富士山が見えそうな遠い目をした芦田屋店主でございますこんばんは。

思えば年始から、早速ご想像に難くない無休の日々を貫いておりまして、明らかに昨年よりハイペースでございます。

そんな事では人生が全て仕事だけで終わってしまうぞと思った昨年末の反省が全く反映されておらず、行き交う山手通りの車の流れを制御できないかの如く、青山通りを颯爽と歩く美女の歩みを止められないかの如く、自分の人生であるにも関わらず、自身で制御しきれないこの人生の貴重な時間のジレンマはあたかも宇宙の法則かの様に思います。

今年も早3月という事だが、この2カ月は体感的には2秒というところか。

いつもブログネタに困らない様に、ネタをメモしたりするのですが、これがまた役立たずでして。

本日はそのネタを使ってみるかと思い至り、メモを見返したところ。 こう書いてあった。

”ウラ話 東京ではなかった”

なんだこりゃ?

さっぱり思い出せない、何がウラ話なのか自分でもさっぱり分からない。

東京ではなかったって、何が東京ではなかったのだろうか。

他にもいっぱい書いてあるのでご紹介致します。

”家の前に空き缶すてる奴”

”蜘蛛が愛おしい”

”ゴールド免許”

”人生の所業は最後はゼロ”

他にも色々とありましたが、全部思い出せない。 一体これはどういう事だろう、全て思い出せない。

”家の前に空き缶すてる奴”はかろうじて当時腹が立っていたのだろうかと思い出すが、果たして今現在そこまでムカついているかと言えば、特にどうでも良いかなという感じである。

最後に一つ書いてあったのが。

”人を怒らせてしまっているかもしれない”

というのがあった。

これはちょっと妙に刺さる物があった、自分で書いておいてなんではあるが。

これをメモした当時、怒らせてしまう事を反省したのか、後悔したのか、思い出せない。

怒らせないという手段も時には必要、怒らせても構わないという信念の一貫性も必要だと思ったのだろうか。

とても難しい匙加減の話だなと思った。

怒らせても構わない思想や主義の慣行であれば、それが大きなスケールなら争いになる事もあるだろう。

かたや自分を曲げて相手のご機嫌を伺うのは自分がない人間ともいえる。

どこからどこまでが線引きできるのか? 誰が線を引くのか?

店主はどちらかというと日常的に平穏の為に簡単に自分を曲げる人間であるが、ここぞという所で頑固さを持ってしまう。 それがとても相手を不快にさせてしまう事もあると思う。

そんな簡単に分かっている事でも、容易に自分でコントロールできないものである。

少なくとも、小難しい哲学の真似事を書いているこのブログは自分を曲げていないのでとりあえず良しとしておきたいところである。

ところで趣味の小説が全く書けておりませんで、小説は書くのは苦ではないのですが、物語に入り込むのに多少の集中力と、精神的なコントロールが必要になります。 店主の場合。

言うなれば、書いている最中はもはや当人は夢の中の人になっておりまして、目はうつろで、心は現世に居ないかのようなトランス状態に入ります。

近頃お店の方で色んな問題が出たこともあり、そんな目がうつろな人間がこなせるような現場ではなかったので、書けるコンディションに至らずでして。

またコンディションが整い次第再開したいと思っております。 あくまで趣味の範囲で。




2023年1月14日土曜日

河川敷ファーザー ファイナル

東海が狂気とも思える凶行に出た挙句に、振り上げられたナイフが振り下ろされるまでの間が何秒間だったのか、僅か数秒の間で、俊樹はある日の夢の中で見た光景を思い出す。

夢の中で、思いがけず面食らった場面で争いになってしまうが、思い通りに体が動かない、今すぐそこに走り込みたいのに、まるで自分の足に重りでも付いているかのように、普段ならばもっと俊敏に動けるはずなのに、恐ろしく体が重く鈍く、水中にいるかの様だ。

そう、あれはまるで、プールの中を走っている様な、そんな夢を見たことを思い出す。

振り下ろされるナイフの先端は、俊樹が俊男の元に駆け寄るに足る距離の、何十分の一だろうか。

その距離をナイフが振り下ろされるより早く、この足であの場所に入り込めるのか。

とても悲しいけれど、きっとそれは叶わないのだろう、俊樹は直観的にそれを認識してしまった。 だから彼はきっと叫ぶしかないのだろう。 

”もう止めてくれ、これ以上俺の家族に関わらないでくれ”

それが今この瞬間の彼の最たる願いであり、平穏に暮らしてきた彼ら篠崎家にとっての渇望される願いである。

だがそれを圧倒的な無感情さで突き破って押し入ってくる暴力に、人生最大限の勇気と精神力で立ち向かっている俊男。

その戦いを、命の危険を顧みず守る母親、身体を張って全員をまとめて守ろうとする俊樹の正しい道徳観は、成す術もなく暴走する純粋かつ未成熟な人間性が操作するナイフの先端で破壊されてしまう。

きっと意外と牧歌的な結末が待っていると信じていた俊樹が、ここまで来て初めて恐怖したのは、会ったことも見たことも無い、人生で関わりようの無かった狂った人間の暴走した力を目の当たりにしたからである。

俊男は雄叫びを上げて、東海の胴体にタックルを当てる。

ほんの少し、桃子から東海を遠ざけるが、それ以上は東海はビクともしない。 

中学生の男子の成長期というのは差が大きい。 人によっては1年生から一気に成長が始まるが、遅い成長期であれば高校生にならないと大きくならない子もいる。 この二人は明らかに対照的だ、一方はもうすでに180センチ近い、一方は160センチ程度、余りにも差が大きい。 

幸い桃子からは東海迄の距離は2メートル程度、だが俊男は背中を無防備に東海へと晒してしまっている、もはやナイフの事など気にも留めていない、母親を死ぬ気で守りに行っている。

俊樹の叫びは届かない、ナイフは無常に振り下ろされる。

もう駄目だ、間に合わない。

だが、そうはならなかった。

生きた魚の表面の様な煌びやかな刃はどこにも刺さらず、俊男の背中の手前でピタリと止まり、東海の顔が強烈に歪んで身体をぶるぶると痙攣させる。

東海の背後に亡霊の様に見えるバイクのヘルメットを被った黒ずくめの男が一人立って、東海の首を後ろから右腕で掴んでいる。

東海は思わず身悶えして前方に駆け出す。

黒ずくめの男は無言で立っている。

東海「誰だお前!何しやがった!?。」

黒ずくめの男「気に入らないので止めただけだ。」

俊樹は思い出す、この男、さっき土手の後方から俺を覗いていた男だ。全身真っ黒なライディングウェアーを纏っていて、フルフェイスのヘルメットはスモークになっていて表情は全く見えない。

何かの道具だろうか、両腕、胸部、腰回りに妙な装置を沢山ぶら下げている。

ヘルメットの中から無線の通信の様な雑音が微かに聞こえる。

「足田!お前、いー何やって―ー 標的はーーー!」

「悪いな幸田、ちょっと寄り道した。見逃せない案件だ、直ぐに終わる。」

東海は自分が何をされたか分からない、全身に電流が流れて身体が雷を打たれたように動けなくなった。 無論東海は雷に打たれた事が無いのだが。

これまで感じたことのない恐怖を覚える、あまりにも異様な雰囲気の大人の男に対峙して、誰彼構わずに傍若無人に立ち向かってきた彼はこの時点で、生まれて初めての気負いを覚える。

俊樹はこの隙に一気に東海の方へ走り込む。

俊樹「このガキ!お前自分が何やってるのか分かってんのか!」

突っ込んできた俊樹に顔面を思い切り殴りこまれるも、思わず俊樹を殴り返す東海。 そして二人はもみ合いになり折り重なる。 

その内に東海だけが立ち上がる、俊樹は四つん這いになって動けない。 

腹に、腹に力が入らないぞ、熱い、何だこの暑さと全身から噴き出す汗は。 

桃子「お父さん!なんで!なんでこうなってしまうの。」 

桃子が泣き叫びながら駆け寄って俊樹を支えるが、たまらず寝転んで仰向けになると、左の脇腹から大量に血が流れだしている。

俊男と他の子供達は目の前で起こっている現実に唖然として茫然自失で立ちすくむ。

すかさず黒ずくめの男が東海に立ち向かう、目の前まで迫ったところで、もはや半狂乱と化した東海がナイフを前へ突き出す。

男は左手でナイフの刃先を直接掴む、ガッチリつかんで離さない。 東海が左腕を右手に重ねて力ずくで引き抜いたが、それでも男の左手は無傷。

男はゆっくりと落ち着いた動作で、右の掌を開いて東海の顔へ向け、ヘルメットの首元に付いたスイッチを押す。

次の瞬間、強烈な閃光が東海の顔面で炸裂。 東海は顔面を手で覆いのた打ち回る。

視界を奪われた東海の元へゆっくりと近付いて、再度首を後ろから掴む。

今度は右腕の袖当たりのスイッチを左手で押すと、先程と同じ様にまた東海が一瞬激しく震えて、完全に沈黙した。

すぐさま男は俊樹の元へ近づいて、流血している箇所を確認して、何やら無線でやり取りを行っている。 

男「幸田、怪我人がでた。 脇腹をナイフで刺された人物がいる、介入したからには一般の病院は使えない。 例の病院へ俺がバイクで運ぶぞ、連絡を入れておいてくれ。」

無線「お前一体何やってんだ!なんで他人のトラブルにお前が絡んでる、おまけに怪我人だと!?」

男「悪いな、人助けだ。 見過ごせない状況だった。 たまには俺の道楽にも付き合え。」

無線「・・・。分かった、傷口にタオルを当てて縛って圧迫してから搬送しろ。 それで失血死なら運が悪いな。因みに重篤な内臓損傷の場合は処置は諦めてもらう、それが嫌なら救急救命に行け。」

男「了解。」

男は俊男と桃子に指示を出し、俊樹を自身の身体に積載していた積み荷積載ベルトで固定して銀色の大型バイクにまたがり、エンジンを掛ける。 強烈な低音で周囲の雑草が細かく震える程の低周波がこだますが、決してうるさい音量ではない。

去り際に一言言い放つ。

「ガキ共、もし次にこの家族に近付いたら。 一人残らず、必ず、殺す。」


~2週間後~


夏の夕方の雨は大抵決まってゲリラ豪雨だ、父さんは昔は夕立だったと言っていたが、夕立とゲリラ豪雨の差が何なのかを聞いたら、こう言っていた。

「夕立はさ、サイダーみたいな感じだよ。 シュワーってしててな。 雨なんだけどな、気持ちいいんだよ。 その後晴れ間が戻ったら虹が掛かったりするんだ、当たりが真っ赤に染まってな、そこらから晩御飯のカレーの匂いがしてきたりする。 ゲリラ豪雨とは違う。」

「ふ~ん、なんかよく分からないけど昔にしかなかったんだね。」

ゲリラ豪雨が迫りくる最中、喪服を着た桃子がコンビニで傘を買って戻ってくる。 

傘を俊男に渡して、二人で葬儀会館前で並んで立っている。

俊男「母さん、あれから東海君は学校にも来てないよ、事件にはならなかったけど。」

桃子「うん、、母さんね思うんだけど、あの子、誰かに止めてもらいたかったのかなと思って。 あのバイク乗りの男の人、良く止めてくれたわねぇ。 あの子、自分でももうどうやって自分を止めたら良いか分からなかったんじゃないかしらね。」

俊男「そんなの勝手だよ、あんな無茶苦茶しておいて。」

桃子「子供からするとねぇ、そうよねぇ。 だけど大人がしっかりしていればあの子があそこまでおかしくなることってない様な気もするのよねぇ。 廻りの大人がそれで良しとしてきた環境だったんじゃないかしらね。」

そこへスピードを上げた白いワンボックスが二人に近付いて停まってウインドウを下げる。

俊樹は苦笑いしながら言う。

俊樹「ごめんごめん!遅くなった、この葬儀場、駐車場が広すぎて何処に停めたか分からなくなってしまった」

俊男「だから入り口近くに停めた方が良いって言ったじゃん!」

俊樹「いや~すまんすまん、奥の方が落ち着くんだよ。さぁ乗った、帰ろう。」

車中でタオルで頭を拭きながら俊男は幾つかの気になっている事を俊樹に聞いてみる。

俊男「お爺ちゃん結局何歳まで生きたんだっけ?」

俊樹「90歳だったな、、、まぁ最後は眠ったまま逝っちまったからなぁ、それはそれで苦しむ事なくて良かったのかな。」

悲しそうな表情で言う俊樹に重ねて聞いてみた。

俊男「全然違う話だけど、父さんあのヘルメットの人と病院で話したんでしょ?どんな人なの?」

俊樹「それは、、、絶対言えない、話さない約束。 多分、良い人ではないみたいだ。 だけど、悪人でもないというか。 ただ言ってたよ、俊男も俺も桃子も、凄い勇気だと思うって。 だけど次からは相手の指定地には赴くなってさ。」

俊男「なるほど。」

ゲリラ豪雨は止んで、雨上がりの空が夕焼けに染まる。 車内が真っ赤に染まって、俊樹は嬉しくて笑ってしまう。 

笑うとまだ傷口が痛い。



書いておいてなんではあるが、後半の出来の悪さは自身でも容赦し難い物がある。

う~ん、小説って難しい。

短編と決めていたので、4話で完結させないといけないという縛りもあってか、ディテールにまで解説が及ばないのと、俊樹が生き延びたのか死んだのかをもっと上手くサプライズできたように思うがそうはなっていない。

長編であれば、東海のその後も描けるが。

またはヘルメットの男の登場のさせ方ももう少し工夫が必要である、ここだけ読んでもなかなかヘルメットの男の正体は当然つかめないが、書き方次第でそれに纏わる別ストーリーが展開されているのだろうと想像させることは可能であるから、ここではあまりにも稚拙な登場と言えると思う。

気を取り直して、次のお話を書いていこうと思います。

次は

”キエル魔球”

というお話。



キエル魔球 ~元実況アナ 駒田 その1~

鬱蒼と茂った竹林の麓に見える家が一軒見えてきた。 竹林は地震に弱いと聞いた事があるが、駒田氏の家屋の裏は正しく竹林の急な傾斜になっている。 土砂災害は大丈夫なのだろうかと加藤は他人事ながら心配になってしまう。 駒田氏の自宅に限らず、都心を離れて地方の取材に行った際などは、いつも山...