2022年12月29日木曜日

2022 年末のご挨拶

 誰しも大なり小なり持っている物なのかと思うが、店主の場合においては仕事モードスイッチというのが明確に機能しており、スイッチをOFFにしてからもう既に3日が経過した。

しかしながら毎晩見る夢は仕事の夢ばかりで、一昨晩などはブログで書けない程に奇妙な夢を見てしまったもので。

あまりにも奇妙だったので、たとえ夢であっても書くのは憚られるのである。

それはそれとして、スイッチがオフになると酷い集中力の下がりようでございまして、先日の食事会などは約束の時間の10分前に着こうかと思っておりましたら、丁度時計の短針一周分を戻した状態で気付かずに動いてしまっておりまして。

結局1時間丁度早く着いてしまったので、近くの喫茶店で1時間を潰すことに相成りました。

滅多に流行りの喫茶店など入らないものですから、無糖と砂糖どっち?とお若いお嬢さんに聞かれたものの、叔父さんは上手く聴き取れずに、「レギュラーかな。」と答えてしまう始末で。

お嬢さん笑ってくれれば良かったんですが、ムスッとしたまんまであまり愛想は良くなかった印象なもので、カチンときてついつい説教してしまいそうになるのを堪えて、「あ〜、こりゃ失礼、無糖でよろしくお願いしますね」と答える自分に、気が長いのか、意気地がないのか、こういう場合どっちに数えるのが良いのかと暫く考えてしまいました。

そんなやりとりがあった手前に、ちょっとしたハプニングがあったのですが、お店の入り口にあった足拭きマットが捲れていたので、自動ドアを越えながら、右足でパタパタと戻してやろうと適当な事をやっていたら、空いていた自動ドアが戻ってきて閉まろうとするもんで、慌てて身を引いたのですが、店主の無駄に細く長い首だけが挟まりそうになりまして。

おいおい、これで首だけ挟まって、想像以上に駆動力が高かったら頸椎を痛めてしまうのではないかと焦ったもので。

慌てて右腕の肘を壁に、掌をドアに当ててつっかえ棒にしたまでは良かったのだが、その力が恐ろしく強く、機械的な力が人力を圧倒的に上回るその時に感じる少しばかり無慈悲な力差というのを身体が感じると、どこかに置いてけぼりを食らった様な、ほんの少し悲しい気持ちになるのです。

オートバイで事故を起こした時も似たような気持ちになったりします。

まぁ強烈な圧力を感じた後に安全装置のセンサーですぐに開放されましたが、その焦りを残したままのレギュラーの回答でしたから、致し方ないと付け加えたい。

そんな訳でございまして、久しぶりの長期休暇に入り今年の残りもあと僅か。

今年の締め括りのご挨拶の更新となります。

本年中も変わらず芦田屋をご愛顧頂き、誠にありがとうございました。

今年はとにかく忙しく、昨年までは休み休みで旅をご一緒したり、作業の合間に度々談笑を楽しむ余裕が沢山あったのですが、その点では折角のご来店時にあまり楽しんで頂けなかったのではないかと申し訳なく思う事が多々ございました。

来年は淡白な一年とならない様に、多少の遊び時間を持てる一年になればと思いますが、この調整というのがまた難しいものではございます。

一抹の懸念を残しつつ、新たな一年も何卒芦田屋を宜しくお願い申し上げます。

芦田屋店主






2022年12月16日金曜日

河川敷ファーザー Vol.3

青く生い茂った土手に生えているのは芝と呼べるのか、それとも単なる雑草なのか?

そんな事を思いながら顔を上げ続けて歩く、一歩一歩、自分の勇気と生存を確かめる様に踏みしめる。

俊男は思う、こんな恐くて孤独な気持ちは生まれて初めてだと。

もしかしたら傍から見ればどうってことも無い、どこにでもある様な仲の良さそうな子供たちにでも見えるだろうか。 もしそうなのであれば、余計に悔しい、大人がしっかりしていれば、大人がもっと見ていてくれたなら僕はこんな目には遭わないのではないか。

何故守ってくれない、何故僕を救ってくれないのだ。

もういい、僕一人でも戦うしかない。

俊男はたった一人で、6人の少年達に対峙する。 中でも一際背の高い東海少年が口を開く。

東海「おい俊男、おせぇぞ、あぁ?」

俊男「・・・・。」

東海 「てめぇ、舐めてんのか?返事しろおい!」

俊男「うるさいなぁ、”俺”は走って来たんだよ、それでも遅いってことは設定時間に無理があるってことなんじゃないの?」

東海 「こいつ、、、!」

俊男は全身の筋肉に緊張と恐怖による痙攣が起き、生物的な反応で言うところの、逃走準備段階に入っている事を察したが、俊男は生まれて初めての経験になるであろう、拳を握った。

東海の振りかぶった右腕が全身の捻り運動の補助を経て、俊男の顔面に向けて強烈なスピードで振り下ろされる。 

俊男と東海の身長差はかなり物で、まるで上空から降って来る隕石の様だ。

俊男は両腕でガードする、意識したものではない、咄嗟に恐ろしさのあまり無意識に顔を守ろうとした所作に近い。

東海の拳が俊男の腕にめり込む。

俊男「ぐっ!」

恐ろしい威力だと思う、東海君は空手を小学1年生から習っているらしい、空手のパンチはこんなに痛い物なのか。 

東海「お前さ、マジで殺されたいの? 10万だよ10万、早く出せよ。」

俊男「うるさいんだよ、ある訳ないだろ!10万なんて!なんなんだよ!」

俊男は右腕を大きく振りかぶって、東海同様のパンチを繰り出そうとするが、やはり生まれて初めて人を殴る人間特有の遠慮と殴る事への恐怖が入交り、大袈裟な動作になり、あわよくば避けてもらいたいと思っているのではないかと思うほどのパンチである。

難なく避ける東海、しかし、俊男は打算していた。

余裕を持ってかわした東海に体ごと強烈なタックルを喰らわせる、そのままの勢いで倒しこんで馬乗りになった。

東海「俊男てめぇ!」

東海が発する殺気が一気にボルテージを上げる。

一気に場の空気が変わる、凍り付いたように周囲は東海の殺気につられるように嫌な空気が漂う。 

その頃俊樹は、激しく咳き込むほど全力疾走した後に何とか河川敷まで到着して、土手の手前から俊男の様子を伺っていた。

俊樹の胸に去来する複雑な思い。 

果たして中学生の喧嘩に40後半のオッサンが割り込んで、大人の力でねじ伏せて安易な解決を図っていいのだろうか? 

そりゃ本気になればさすがに中学生相手ならもし暴力沙汰になっても抑え込めるような気がする。 俊男も守れるだろう、それで連れて帰って、ハイめでたしでしたとなるのか?

そもそもなぜ俊男はあんな連中と絡んでしまったのだ。 母さんには悪いのだけど、まぁ所詮は中学生の喧嘩、男の子なら時にはこういう事もあるし、こういう場面をくぐっておかないと後々に影響しそうな気がする。 ひとまず様子を見てみよう、危ないと思ったら飛び込もう。

そう思う俊樹の胸に去来する一抹の不安要素。

以前ゴミ回収業務の最中に会社の先輩に言われたことがある。

「篠崎さぁ、グレたことないだろ? お前さん真面目過ぎるよ。」

「はぁ、自分は特に反抗期とかなかったもんで。」

「気を付けないと、お前さんさっき普通に話してた男、あれはヤバい、次から無視しろ」

「え、でも普通に話しかけられたもんですから」

「世の中にはな、どうしようもない悪ってのがいるんだよ、悪でも2種類いてな、まぁ人の心持って明るい不良ってのをやってるやつと、人の心を捨てた悪魔みたいな奴がいるんだよ」

「あぁニュースとかで、、、」

「バカだなぁ、そりゃたまたまニュースになっただけで、そういう奴は候補生としてその辺にごろごろいるんだよ、いつ殺人者になってもおかしくない連中だよ、いいから誰とでも愛想よく話すのはやめときな」

「そういうもんですかねぇ」

人の心を捨ててしまった悪。 俊樹にははっきりとそういう人物がどこの誰なのか現実味がなかった。 まさかこういう連中がそうだったとしたら、どう対応すべきなのだろうか。

その時、土手の下でワッと声が上がり、砂煙が舞う。 汗が目に入ってよく見えない、だけど殴り合っている? 俊男が?

思わず、立ち上がって飛び出しそうになるが、ここでもぐっと堪える、待て俊樹、まだ早い。 俊男は自己解決に向けて全身全霊で戦っている、ここで水を差すのか、いやダメだ。

どうにもならないと明らかな場面まで待機だ、いやしかしもし取り返しのつかない事があったら、、どっちだ、どっちが正解なのだ。

子供の自主性? 子供の保護? 

更に土手の下が騒がしくなる、今度は俊男が馬乗りになっているようだ、まさか俊男が優勢なのか。

その時妙に背後の方から凝視されている気配を感じたので振り返ると、全身黒づくめの妙な男が遠くから見ている事に気付く。 ヘルメット?

土手の方では、東海が唸り声を上げながら俊男を両手で下から体ごとリフトアップする、そのまま捻り倒して地面に叩きつけた。 埃を払いながら東海はじっくりと俊男に迫る。

軽い動作で右足を腰の高さにゆっくりと上げたのち、俊男の脇腹狙いの様な蹴りを繰り出したと思った瞬間、膝辺りからくいっと高度を変えて顔面目掛けて蹴りを繰り出す。

俊男は左のこめかみ付近に強打を喰らう、まるで低速の紙飛行機の様によろよろと倒れそうになり膝をつくが、倒れない。

俊男「ふう、、痛いなぁもう」

俊男の中で何かが吹っ切れた、もうどうでもいいやと思った。 全部どうでも良い、死んだって良い、そう思った。

武力では勝てない、頭を使うんだ、IQで勝たないと、あんなキックをもう一回喰らったらもう立っていられない。

左手で手を着くふりをして砂を思い切り掴む。

砂を掛けて目くらましだ、右手は石を掴もうとするが、やはり諦める。 そんなことをしたら人を大きく傷つけてしまうかもしれない。 ならば素手で急所を狙うしかない、首だ、何とか背後に回ってチョーク何とかというやつをやってみよう、それなら非力でもやれるかもしれない。

東海「なめやがって篠崎、お前だけはマジで殺すからな、絶対殺す」

俊男「だからなんで俺が殺されなきゃいけないの?」

その瞬間、俊男は思いっきり砂を東海の顔面に目掛けて投げつける、が、動作を悟られ、東海のガードが一瞬速かった為、不発。

だが俊男は東海のガード時間を使い、東海の少し左側へそれた位置へ向けて猛ダッシュで突っ込む、右サイドにあった大きめの石を蹴って、反動の動きを使い三角飛びの要領で両手を思いっきり伸ばして首へ巻き付ける。

掛かった!腕が絡んだ。 このまま締め上げる!

だが東海は右腕を前へ出して、肘を思いっきり俊男の脇腹へ叩き込む。 

俊男は大きく前のめりになっていよいよ、地面に頭から崩れ落ちる。 

息が出来ない、苦しい、死んでしまう。

そこへ目を血走らせた中年男性が土手を駆け下りて大声で何か叫びながら走り込んできた。

俊樹「俊男!大丈夫か? 君たち俊男と同じ中学の子だろう、もういい加減にしなさい!」

東海「あぁ?オッサン誰なの? なんなの?」

俊樹「俺はこの子の父親だ。」

東海「あぁそうなの、じゃあ話早いじゃん、俊男に貸してた10万代わりに返してよ。」

俊樹「え、、貸してた?そうなのか俊男。」

俊男「父さん、、そんなわけないじゃないか!」

俊樹は動揺する、大人が駆けつけたところで一旦引くのではないかと思っていたが、引くどころか平然と嘘までついてきた。

引いてもらわないと、大事になってしまう。 警察を呼ぶようなことなのだろうか、そんなたいそうな事とは思えないが、、。

俊樹「とにかくこの場は君たちもう帰りなさい、こんなところで騒ぎを起こしてしまったらいい事は何もないぞ」

東海「うるせぇ!オッサンお前もやっちまうぞ。」

俊樹「は?」

東海「お前らこのオッサンボコっちまえ、俺は俊男を殺す。」

俊樹「ちょ、まてまて、おいおいおい」

俊樹は先輩の言葉を再度思い出す。 

世の中にはどうしようもない悪ってのがいるんだよ、そいつらはどうにも止められない、そういう奴が人を殺すんだよ。

まずいと思った時には背後から背中を思いっきり蹴られる、ここまでされては大人の俊樹も流石に怒りが込み上げてくる。

蹴りを入れた仲間の一人を思いっきりヘッドロックして引きずり倒す、そこへ前方からまたもう一人、飛び蹴りで俊樹の顔面に蹴りを入れる。

たまらずヘッドロックをほどいてしまう、そのまま蹴ってきた少年の足を右手で掴んでまた引きずり倒す。

こいつら、本気で殴ってやろうか、と思うが、まだ迷う、大人が子供を相手に本気で殴り合って良い物か? 

と思った瞬間大勢から一気に畳みかけられる、何か固い物で思いっきり頭を殴られた感じがする、石か? 体温より少し暖かい位の液体の感覚が鼻を伝っている、頭を石で殴られたのか、なんだこいつら、本当に中学生か、残酷過ぎないか。

隣で東海が俊男を跪かせ、顔面に思いっきり前蹴りを叩き込む、あっけなく俊男が後方へ吹っ飛び後頭部を強打する。 

それでも俊男は立ち上がろうとする、全身全霊の力で体をぶるぶると震わせながら、立ち上がろうとする。 

俊樹が声にならない叫び声をあげて東海へ突っ込む。

俊樹「お前何やってんだ!この野郎!」

俊樹は助走をつけた強烈な右パンチを東海の顔面に真横から叩き込む、ゴムの塊を殴ったような妙な感触が拳に伝わり、東海がよろける。

俊樹はその時東海の目を見た、その目はかつて俊樹が中学生だった懐かしき時代には見たことがない、寒々しい、人の感情を見ることが出来ない恐ろしい物だった。 昔ニュースで見たような、そう、どっかで見たことのある殺人犯の目。

東海は右ポケットから細長い華奢な物を取り出して折り畳まれていた物を折り返して伸ばす。 ナイフだ。

背筋が寒くなる、この子は普通じゃない。 とても話し合いをできる状態じゃない。

その時、女性の大きな怒鳴り声が聞こえ、中年女性が走り込んできた。 

桃子が追いかけてきた。

東海と俊男の間に入り込み、桃子が真正面に対峙する。

桃子の顔は青白い、これは本当にまずい、桃子の血圧は確実に下がっている。 極度のストレスのせいか、不整脈が連発している。 

東海「お前誰だよ、全員殺してやろうか?あぁ!」

この少年、なんなんだよ、まともじゃない。 こんないかれた中学生が世の中に居るのか、どうやったらこんなガキが出てくるんだ。

俺が何とかしないと。 さいしょから警察に電話するべきだった、遅すぎた。 こんなに大事になる程おかしな子供だと思わなかった。

スマホを取り出したところに、背後から強烈な蹴りを喰らう、衝撃でスマホを落としてしまう。 残りの仲間も殺気立っている、これは完全につられている、この長身の少年の勢いに影響されておかしくなってしまっている。

少年の一人「オッサンの相手は俺がやってやるよ」

俊樹「お前ら、もう許さない、、。」

俊樹は少年の一人を思いっきり殴り倒し、後ろに構えていた少年にまた近づく。

更に鳩尾に思い切り蹴りを入れる、少年はかろうじてガードするが、後ろへ倒れ込む。 40後半の年齢とはいえ、14歳の少年達との力の差はやはりかなりのアドバンテージだ。 

一人一人なら負けることは無い。 だが、問題はあの長身の少年だ。

残り3人と対峙している間、横目に東海が桃子に近付く様子が入る、まずい、助けに入らないと。 だが、背中を見せた瞬間恐らく残りの仲間たちは襲い掛かってくるだろう。

万策尽きて頭が真っ白になりかけた時、東海に飛び込む影が見える、俊男だ。

俊男が立ち上がって、ナイフを持った男に飛びかかる。

東海が背筋が凍る様な寒々しい薄笑いを浮かべて、ナイフを天高く振り上げる。

俊樹は叫ぶ

”ダメだ!止めろ止めろ! 止めてくれ!”

続く


何だかちょっとバイオレンスなシーンが続いてしまいましたが、この問題の本質は暴力シーンとは全く別の所にあります。 店主はそんなに社会的な人間ではないので、それが伝わるかどうかは特に期待していることも無いのですが、でも自身の再確認として、その時々に子供の育成という所の本質的な問題を書くことで落とし込むという作業に近いかもしれません。

こういった形になったのは、先日申し上げました旭川の事件の事もありますし、地元の殺人を犯してしまった少年が割と近くにいたせいもあります。 しかも1人ではなく。

東京に来て、平々凡々と暮らしておりますと、且つてそういった凶暴な人達の事を思い返したりしますが、いつも思い返すと、そういった少年達の家庭環境に、ある一定の少なくない問題点というのを思い返すことが出来ます。

店主自身は比較的平穏な家庭に生まれたのですが、それ自体がとても幸運な事だと思います。

親ガチャなんて言葉がございますが、まぁネーミングは別として、それは実際に家庭環境という物の一人の人間に及ぼす強烈な影響力を少し怖く思ってしまいます。

ごくごく、平凡な当たり前のことが、ある家庭では到底叶えられない様な、望むべき失われた幸運だとしたら。

それはとても怖いのでございます。

それは親次第、そして周囲は介入できない密室の世界だからなのです。

その問題に介入する職業の人たちがいます、介入の限界に挑戦しつつ、日々格闘するお仕事をする方たちもいらっしゃいます。

そういったお仕事をなさっている方たちの仕事と活動が一人でも多くの少年少女の救いとなり、効果を得やすい仕組みと社会になる事を願ってやみません。

自分はバイクをいじりながら、それでもバイクをいじりながら、そうは思っておるのであります。 思っているだけで何もしていません。

それが芦田屋店主であります。






 

キエル魔球 ~種田ホープ軒~ その3 種田と國山

「東京外国為替市場の円相場は高値で横ばいになっています。 1ドル110円45銭~47銭の高い円高水準となっており、日本 製品の競争力低下が懸念されいます。」 店内の天井隅に設置されたテレビから為替のニュースが事もなげに ツラツラと流れている。 幸田は素早くざっとの計算で自身の外貨...