2023年9月23日土曜日

44歳マグナム。

最近自分が若輩なのか老獪なのか分からない年齢だなと思う事が多々ある。

44歳というと、そういった年齢なのだろうか。

随分と気も長くなり、客観的に見てもこれは痛いな!という言動を回避できるようになってきて、立ち回りも随分と器用になった実感がある。

それを会社員時代にやっとけよという話であるが、30代の店主は不器用であった。

頑なであり、自信家であり、努力家であり(日本的には自分で言うべきではないが敢えて明快な文脈にする為)、20年以上の現場経験値があり、それらが周囲との少なくはない摩擦抵抗係数として潜在的に自身にストレスを与えていた様に感じる。

無論周囲に対してもストレスを加える存在だったのではなかろうか。

元々気難しい事を考える気質なので、シンプルイズベストの思考回路の人間や、超楽観的な人からは煙たい存在であったと思う。

ある人には根暗と言われたこともある。

が、根暗ではない、物事の正体を、哲学的な部分と社会学的な部分とを分け隔てて考えたいだけである。

まぁそんなことはどうでも良いのだが、40代も中盤になり、30代の若い方々の言動をとてももどかしく感じるようになってきた。

もどかしいまでは良いのだが、そのままではうまくいかないぞいう言動を如何に良好な結果を出せる様に指南するべきか。

対人とのやり取りの中で、論理的にはそれで良い、理屈は確かにそう、あなたは間違ってはいないのだが、、、そこはへりくだって忖度しなくては相手は心地良くない。

その相手にその経験値を真っ直ぐぶつけるのは絶対上手くいかない。 

そういった事が凄く分かる様になってきて、それを攻めの一手で戦う30代を見て、店主の様な年代はどう導く、はたまたアドバイスしてあげる(30代にアドバイスはとても難しい、良薬口に苦しになりがちである)のが王道であるのか?

いや、王道はなくとも、最大限の良好な結果を導き出すにはどのような立ち振る舞いを見出すべきか?

そんな取り付く島もない様な事柄をぼんやり考えたりする日々ですが、まぁ組織を完全に抜けた浪人の立場でありますから、後輩の世話も下手をすると余計なお世話になりかねませんから、程ほどにしつつ。

いつもまでも頼りがいのある、安心感のある先輩で居てあげたいなと思ったりしています。

自分には最終的にそういった先輩は一人か二人になってしまいましたから。

今でも思い出すのは、30代の頃は上司と呼べる人にあまり尊敬できる人はあまりいなかったような、、、。 思えば悪い人ばっかりだっただろうか。

だが、そのこと自体は悪いとも思わない、世界には良い人と悪い人が両方いてその割合は常に社会的な大きな力によるバランスであるから、個人にとってコントローラブルではないし、操作不能なラプラスの悪魔的な運命の部分が大きい。

途轍もなく非合理的な業務を指令を受けたりして、それを真っ向から非合理的な部分を指摘してあたりが強くなってしまい随分と肩身の狭い思いをしたこともありつつ。

そんなことも思い出していると、30代は第2の思春期とも言える様な気がしてならない。

そんな思春期に入った大の大人の取り扱い、世の40代のおじさん達は大変苦労を重ねている事だろう。

50代に入ればまた新たな境地が見えてくるのだろうが、当然店主にはまだ見えない。

だから先輩方のお話は慎重に、心の耳を傾ける様にしている、そんな事は知っているというような話でも、先入観は一度捨てきって、やはり改めてじっくり聞く様にしている。

そうすると、重要な補足事項が含まれている事に気付いたりする。

やはり40代、この辺りが結構器用だぜ。

しかしそうやって50代、60代とやって行く内に、あら不思議、ぽっくり逝ってしまうのか、儚きかな人間の一生。

人間性の完成とは一生を終える事に帰還してしまうのだろうか?

まぁどうでも良いんですが、11月にレース復帰予定なのですが、今から恐くて仕方なくて。

ずっとこれまで一度も怖くなかったんですが、不思議です、怪我や転倒でお店に何かあるとどうしようかと恐くて仕方ないです。

この雨が終ったら漸く秋が来るのか。









2023年9月1日金曜日

キエル魔球 ~新山運送 新山~ その1

 「はいはい」

 

電話の相手は無愛想な印象で、端的に返事だけを発した。

 

新山運送は従業員数50名を抱えるそれなりの中小企業であり、走らせている関東のトラック便も関東圏内の業界ではそれなりのシェアを誇っていた。 

 

特に千葉県内のシェアが強く、地元企業としては有力な方である。

 

しかし中小企業にありがちな、配送の依頼ではない案件に関しての窓口以外は存在せず、とりあえずのホームページに記載されていた代表番号に加藤はこれまた若さなりの勢いと情熱に身を任せて、いきなり電話を掛けてみたのである。

 

「あ、失礼ですが、新山運送様のお電話で間違い無かったでしょうか?」

 

「はい、そうだけどどちらさんかな?」

 

加藤は大手の新聞社の一員であるが故に、こういった類の対応には些か不満を感じる、大手では決して許されない横柄な態度である。

新山運送の社員教育はどうなってるんだと、憤然としてしまったところで、まさかと思う。

 

「大変失礼ですが、お電話口の方は新山社長でしょうか?」

 

「ああ、そうだけどね、お宅は誰なの?」

 

加藤は身分を明かし、電話した要件と新山運送に行き着いた経緯を細かく説明した所で、新山社長、つまり元千葉ロッテシャークス新山投手はこう答えた。

 

「國山さん…アンタ本気でそれ嗅ぎ回ってるのか? あ、ダメだ、電話だと話せない、要件は分かったからとりあえず会社に来てくれ。 車で来るのか?」

 

「は?勿論こちらからお伺いさせて頂きますが、電話で話せないというのはどういった事情なのですか?」

 

「いや、それも会ってから話す。 後もう一つ、種田という人に会ったか?」

 

「種田さん、勿論お名前は聞いてますが、國山選手の取材上で候補に上がっていますが、まだ会ってませんね。」

 

「それなら良かった、会わずに来てくれ。」

 

加藤は電話の後、駒田元実況アナウンサーの自宅を出て、秩父から直接千葉県柏市にある新山運送まで車を走らせていた。

 

加藤は流石に遅い時間に申し訳ないと思ったのだが、当の新山社長は気にも留めなかった。

何時でも会社にいる、中小企業の社長に休みなんてないと、社長はそう断言した。

 

夕方ごろに秩父を出て、柏市まで一旦関越道を戻って外環で行くしかない。 2時間は掛かる。

 

道中、ぼんやりとまた長閑な景色に目を見やって、駒田氏の言葉を思い出す。

 

國山のヒーローインタビュー。

 

"皆さんの命もなんたら" "引退もせず河川敷で死体で見つかる"

 

一体どういう事なんだ?

 

彼は野球選手ではないのか?

 

だとしたら何の為に野球をやってたんだ?

 

疑問ばかり出てくる、調べれば調べるほど謎だらけだ。 4割打ってた野球選手を調べるだけで、何故こんなに妙な不気味な背筋がゾクゾクする悪寒を感じるのだろう。

 

そこに突然スマホに電話が入り、車のオーディオパネルに"公衆電話"の表記が表示される。

 

加藤は直感的に全身に鳥肌が立つ、この電話…何だ、何故か出てはいけない気がする、何故今時公衆電話なのだ?

 

が、記者としての気概か、出れる電話は全て出る。 情報を得られる機会を僅かでも失わない、関さんに叩き込まれた基本だ。

 

加藤は通話のボタンを押す。

 

「もしもし。」

 

「ジー、ジー、ガガッ」

 

「もしもし?どちら様ですか? 新山さんですか?」

 

「ガガッ、地球人はよく働く。 だが、働きすぎは良くない…暫く休みを取ったらどうか?」

 

「あんた誰だ? 急に何を言ってるですか?」

 

「ジジジー、休め、止まれ、止まれ?じゃないや止めろ?」

 

そこで電話が切れる。

 

加藤は急に恐ろしくなってサービスエリアに止まり、自動販売機に早歩きで駆け寄り、お釣りを取るのも後回しにしてブラックの缶コーヒーを一気に飲み干す。

 

何ださっきの電話。 何だろうこの違和感、この世のものでは無いような声の質感と言うか、違和感。 電波の様なノイズを聞いている様な。

 

変な言葉を聞いたような感じ、この世の言葉ではない様な。

 

この世の物ではない? 國山…國山? 國山だと? あの雰囲気、まさか。

 

しかし、あり得ない、國山はとうの昔に死んでいる。 実際に遺体も出ているし、その後國山を見かけたなんてオカルトも聞いた事がない。

 

この取材、やばい感じがする。

 

だが、暴かないといけない気もする、國山選手の謎。 

 

気を取り直し、加藤は車を猛スピードで車を走らせて、外環から首都高速6号、国道16号へと走らせていく。

 

ようやくの長いドライブを終えて新山運送株式会社に到着した際に驚いた。

 

会社の表でタバコを吹かしながらしかめっ面の初老の男性が待っていた。

 

「あの、中日スポーツの加藤と申します、新山社長はいらっしゃいますでしょうか?」

 

「待ってた、俺だよ。 良かった、アンタ無事に来れたか。」

 

「え? ああ、まぁ安全運転で来たので。わざわざ待ってくださってたんですね!」

 

加藤は新山の言う、無事にという言葉に引っ掛かりを覚える。 普通言わないな、無事に? 高が高速を車を走らせて来ただけだぞ。

 

「まぁ、とりあえずウチの応接室に来てよ、ここじゃ立ち話になっちまうでしょ。」

 

「恐れ入ります、お忙しい中お時間頂戴しまして申し訳ありません。」

 

「本当だよ、中小企業の社長は忙しいからね、何だったら人がいない時は俺が運転する時もあるんだから」

 

「そうなんですか! 社長自らですか?」

 

「うん、いやまぁ、それはどうでもいいか、それより國山さんの事だろ?」

 

二人は社屋に入り、階段を上がりながら応接室に向かう。

 

歩きながら新山が聞く。

 

「ところで加藤さんアンタ、あの人の事、どこまで調べたの?」

 

「本日は元実況アナウンサーの駒田さんへ取材に行って参りまして、そこで当時の試合の話などをお聞きして、その過程で新山社長のご活躍を耳にしまして…」

 

応接室のドアを開けて、新山がソファを指さして座る様に加藤を促す。 話しながら、手慣れた手付きで自身でお茶を入れる。

 

新山は元プロ野球選手だけあって背高でがっしりとした体格だ、背中も広い。 この体格に相待って恰幅も良く、少なくとも見た目だけで言えば差し詰め貫禄タップリの社長さんである。 

 

「ああ、それで俺があの人との勝負で滅多打ちになってその後引退した流れで聴いてる訳だね。 それ以外で國山さんの話は聞いたか?」

 

「いえ、駒田さんも國山さんは謎ばかりで詳しい事は分からないと。」

 

「ならそれでいい。 悪いことは言わない、もうこの辺でやめときな。」

 

「は?やめときなっていうのは、取材をですか?」

 

「そうだ、國山さんの事は謎で良いんだよ、それでもう解決したし、苦労して解決した人がいるんだ。 その人の苦労を台無しにしちゃいかん。 それに

 

「何ですか勿体ぶって!」

 

加藤は全身でやばい案件の匂いを嗅ぎ取る、記者の勘というものかも知れない。

 

「アンタみたいに國山を追いかけて消えた人間がいる。」

 

「消えた?行方不明って事ですか? 何ですか、バカバカしい、國山さんは反社が何かの親分さんですか?」

 

「まぁみんなそう言うんだよ、バカバカしい、そうだよな。 だけどな説明不可能な事だって世の中には沢山ある。 おかしな事が周りで起きてしまう、最初からおかしかった…あの人が球界に入った所からおかしかったんだよ。」

 

「新山社長、一体何を知ってるんですか? 話して下さい。」

 

「アンタ命知らずだな、この会話だってどこまで聞かれてるか分かったもんじゃないんだが…分かった。 まぁとりあえずお茶飲みなよ。」

 

そう言って新山はお茶を加藤に勧める。

 

その手が少し震えているのを加藤は見逃さなかった。

 

怯えている? 加藤は縦横無尽に駆け巡る好奇心と、先程の公衆電話からの会話の恐怖との交錯で、自制が効かなくなっていた。

 

こんな時関さんなら一旦落ち着いて家に戻って一呼吸置くのだろうか?

 

まるで先が早く知りたくて、グングン読み進めて止まらなくなってしまった小説の様だと感じる。

 

加藤は新山の話の結末を、水に飢えた植物の様に吸収していく。 

 

一方その頃、大田区の種田ホープ軒に変わった二人組の男達が来店していた。




以前一度月一回更新を断念しているので、特にそこに拘る必要は無いのだと思うのだが、やはり一度自分に負けたからとはいっても、2度負けたくない。
一体何と戦っているのだろうかと思う事もあるが、ここが結構大事なところだと思う。
何かが途絶えてしまってもういいやとなる事は、日常的によくある事だが、そこからもう一度、以前と同じ様な情熱でトライし続ける負けん気というのが、結果を出していく上で、大切だと思うのである。
これは仕事上で非常に役に立つことが多い。
まぁ平たく言えば、不屈の闘志的な物だろうか。
こういう考え方で、日々楽しいのか?と聞かれる事もあるが、日々チャレンジすることは楽しい。 重要なのは、心に悪影響を及ぼす程に自分を追い込むか追い込まないかであるから、チャレンジ自体は本来楽しい物なのである。 要は心持が肝要であるという事だろうと認識している。
それにしても、高架下は常に寂しい。 何故だろう、不思議だ。


キエル魔球 ~種田ホープ軒~ その3 種田と國山

「東京外国為替市場の円相場は高値で横ばいになっています。 1ドル110円45銭~47銭の高い円高水準となっており、日本 製品の競争力低下が懸念されいます。」 店内の天井隅に設置されたテレビから為替のニュースが事もなげに ツラツラと流れている。 幸田は素早くざっとの計算で自身の外貨...