2023年3月16日木曜日

キエル魔球  ~種田ホープ軒~

キエル魔球


プロローグ 

黄色い服装が目立つ観客席から湧き立つ声援。
満員の甲子園球場のアナウンス席で、野球中継アナウンサーの駒田が鬼気迫る実況を繰り広げる。

「何という劇的なゲームなのでしょうか、セリーグ王者を決めるこの試合。 9回裏阪神ブレイブスの攻撃、中日キングスが1対0でリード。ツーアウト、ランナー1塁、カウント2ストライク2ボール。 守るのは中日キングス。 バッターは國山、ピッチャー先発からここまで投げてきた種田。 岸本さん、ここまでやはりほぼ完全無欠の投球を続けた種田選手、やはり次の球もキエル魔球でしょうか?」

「やはりそうでしょう! 國山選手に対して、種田の他の球種ではとても太刀打ち出来ないでしょう。 種田でなくとも、打率4割3部の國山にとってキエルマキュウ以外は通用しないと思いますよ!はっきり言って種田のもう一つ球種ストレートはこれまで残念ながら全く結果を出せていませんからね!」

「そうですか、ここまで消える魔球でノーヒットノーランでしたが、9回裏1番バッター樫本に対して痛恨のデッドボールを出してしまい、迎えるは、打席に立てば半分近い確率で出塁出来る、もはや神の領域と呼ばれる4番國山選手、流石の國山選手もキエル魔球相手にこの回まで快音は聞こえてません。 一方、唯一の武器である消える魔球を使う種田選手、逆転圏に入ってしまうランナーを出し、苦しい展開になってしまいました。 さぁ、キャッチャーからサインが入ります。 種田、首を縦に振った。 決まった様です。 投球モーションに入ります。」

ピッチャー種田は投球モーションに入り、超人的に長い指を赤いボールの縫い目に決まった角度に這わせて手首の力を抜く。

必要以上に大きく身体を捻り、後方へ振りかぶって、サイドスローに近いモーションを行い、血管が破れるのではないかというくらいの全力でボールを全身全霊で投げ放つ。

その瞬間、球場全体が水を打った様に静まり返り、時が止まる。

球は種田の指の腹を転がる様に回転して手を離れ、バックスピンを繰り返しながら上下左右に揺れる、揺れて、ブレて何処へ行くのかわからない様な不規則、不自然、不安定な軌道を取りながら、丁度バッターボックスとピッチャーマウンドの真ん中辺りで"消える"。

國山のバットが神がかったスピードでスイングされる。

甲子園球場が大歓声に包まれる。

種田は思う、やっとこれでクソッタレの野球人生におさらばだと。


種田ホープ軒

大田区の蒲田にあるラーメン屋の赤い年季の入ったテーブルの上にビールの中瓶が2本並んでいる。 グラスには半分程度のビールを残して、飲みそうで飲まない中年の男が、テレビの野球中継に目が釘付けになっている。
隣の席では20代の若者が、無我夢中で麺を啜り、左手に箸、右手に蓮華を持ち、スープと麺を交互に口にかき込んでいる。

「いやーダメだ!監督もうダメだよ、スタミナ切れだよ、変えてあげなきゃ…ダメだこりゃ。
ねえ、おやっさん、そうでしょ? いくらエースだって言ったって、抑え投手を育てられてないからこういう無茶な使い方しなきゃいけなくなるんだよ。 ねえおやっさん。」

聞かれたラーメン屋の店主は苦笑いだ。

「おやっさんならどうする? こんだけ後半撃ち込まれてボロボロな奴に、それこそエースに無茶させるかい?」

店主は黙々と餃子を皮で包みながら、答える。

「うーん、どうかなぁ、投げさせて欲しい時もあるしねぇ、色々心配で投げたくない時もあるしねぇ、どっちだろうねぇ。」

それを聞いていた若者が食を止めて、尋ねる。

「なんで山さんはさ、ここのおやっさんに野球の事そんなに聞くの? おやっさんは野球に詳しいわけ?」

「バカガキかオメェは、この人は昔プロだったんだよ、わかる? プロ野球選手! 知らねぇか? 投手種田と言えば、アレだよ、あれ、キエルマキュウ!」

「えー!おやっさん野球選手だったんすか。すげぇ、知らなかった。 つーか、なんすか、キエルマキューって。」

「ノータリンのボンクラガキだなお前は、消える魔球だよ、冗談抜きで球が投げた後に消えたんだよ。 そりゃあお前、30年前の伝説だよ」

「え!マジすか、消えたら無敵っすね、絶対打てないっすよ、エモい。」

「あ?エモ?まぁとにかくだ、種田のおやっさんは昔は伝説の男だったんだよ、今はこんなラーメン屋、、ああ、すまねぇ、美味いラーメン屋の店主だけどな!」

そこでやっと種田が口を開く。

「あー山ちゃん、もうその辺で勘弁して頂戴。 あんまり野球は思い出したくないんだよ」

「え、おやっさんでも毎晩野球中継テレビで流してるから、俺はてっきり今でも野球好きなのかと思って」

「うんまぁ、野球はね、今でも好きだけどね、いろいろあったから。」

若者は言う。

「何があったんすか?」

種田が口を挟む間もなく、中年の男が開口一番代弁を勝手にしてしまう。

「あぁ、そりゃお前聞くだけ野暮ってもんだよ、考えてみろ、プロの世界で、あいつらガチンコで死ぬ程練習して、厳しい競争の中でプロになって、そこからお前、更にレギュラーの座を争って、なんとか食っていくわけだろ? それも相手は全員日本全国からの野球天才児の集団の中で勝ち残った連中だぞ。
高校野球だってそうだ、予選を勝ち進んで、甲子園に進むだけでもとんでもない事なんだよ、更にプロになる連中はその中のほんの一握りだ。
プロ野球の世界でも全く活躍できずに引退していく奴もいる、2軍から上がれずに終わる奴だっているわけだ。
それを球が消えるというとんでもない天賦の武器を持ってしまったんだ、周りでは色々起こるだろうよ。 昔はインチキ投手なんて揶揄する連中も居たよなぁ、一度は科学的な検証までどっかの大学研究所の偉いさん巻き込んでやってたもんなぁ。 なぁ、おやっさん。
要するにインチキしてるんじゃないかって、世間が騒いだのさ。」

「うわー、超大変そう、オレ無理っすわそういうの。 だっておやっさんインチキしてなかったんでしょ?」

「そうだ、この前教えてくれたけど、おやっさん自身、なんで消えるのか、自分でも分かってなかったんだってさ。 おやっさんはおろか、世界中が注目して、みんなこぞって研究したけど、結局分からなかった。 んで、一番凄かったのは最後の試合。 種田vs國山だよなぁ。 ねぇ、おやっさん。」

「あぁ、國山さんね、凄い人だったねぇ、生きてれば65歳になるのかなぁ。 最後にあの人と戦えて良かったよ」

「なるほど〜ライバルってやつっすね!いいなぁ、オレもライバル欲しい〜!」

「このポンコツクソガキ、無職のお前にどうやったらライバルが出てくるんだよ!仕事しろ仕事!」 

「それもそうっすね、オレおやっさんの店で修行しようかな。」

「うん? あぁ、やってみる?良いですよ、今ワタシも引退したくて後継考えてたしねぇ。 まぁ、本気なら。」

種田は微笑みながら言う、無職の若者の無邪気な世間知らずさに、少しホッとする。

種田は齢66歳になった今でも考える事がある。
結局の所、あの消える魔球というのはなんだったのだろうか?

あの球が投げられなかったら、自分の人生はどうなっていただろうか。

今でも思う、國山さんなら答えてくれるんじゃないかって。続く





なかなか小説を書く時間を捻出するのが至難の業になってきて、頭の中でストーリーだけが構築されていく日々が続きましたが、何とか着手まで。
着手したのは良い物の、少年野球をやっていた頃から31年も経ってしまい、野球のリアルな部分を書くのがとても難しい。
今でも大きな公園に行ってみると、少年も、大人も、一般に貸し出ししているグラウンドで野球をやっている姿を遠巻きにぼーっと見ていたりする。
今、思いっきり球を投げたら肩がおかしくなるのかぁとか思ったりする。
自由奔放に転がる白いボールに、だだっ広い場所、真ん中に立ってみると、何かの演劇の舞台の主人公になったような気分になったりする。
丁度大谷選手が大活躍しているWBCも相まって、野球の話は書いていると結構面白い。
大谷選手も超人である、それはそれで現実世界の超人である。
しかしながら、ここで出てくる種田は、超人ではない。 ただ妙な球をたまたま投げられるだけの、他は全て落第点の貧弱な投手。 彼がキエル魔球を交えて過ごした人生は幸福と苦悩に満ちていると思う。
きっと、もしキエル魔球を投げる選手がいたならば、きっと幸福ばかりではないだろうと。
そんな小説である。




2023年2月27日月曜日

滑り込み

 滑り込みもいい所である。

月一回の更新をモットーにしておりましたこの町工場の夕日ですが、いよいよ途絶えるかという所で強引に本日時間を作って書く事に致しました。

本来はお見積もりの提出が多く溜まっておりまして、その他メールの返信、ラインの返信、SMSの返信、電話の折り返し、数え切れませんが、本日の優先順位を一気にブログへシフトしてみました。

遠くを見れば、今宵も心の中に真っ白な富士山が見えそうな遠い目をした芦田屋店主でございますこんばんは。

思えば年始から、早速ご想像に難くない無休の日々を貫いておりまして、明らかに昨年よりハイペースでございます。

そんな事では人生が全て仕事だけで終わってしまうぞと思った昨年末の反省が全く反映されておらず、行き交う山手通りの車の流れを制御できないかの如く、青山通りを颯爽と歩く美女の歩みを止められないかの如く、自分の人生であるにも関わらず、自身で制御しきれないこの人生の貴重な時間のジレンマはあたかも宇宙の法則かの様に思います。

今年も早3月という事だが、この2カ月は体感的には2秒というところか。

いつもブログネタに困らない様に、ネタをメモしたりするのですが、これがまた役立たずでして。

本日はそのネタを使ってみるかと思い至り、メモを見返したところ。 こう書いてあった。

”ウラ話 東京ではなかった”

なんだこりゃ?

さっぱり思い出せない、何がウラ話なのか自分でもさっぱり分からない。

東京ではなかったって、何が東京ではなかったのだろうか。

他にもいっぱい書いてあるのでご紹介致します。

”家の前に空き缶すてる奴”

”蜘蛛が愛おしい”

”ゴールド免許”

”人生の所業は最後はゼロ”

他にも色々とありましたが、全部思い出せない。 一体これはどういう事だろう、全て思い出せない。

”家の前に空き缶すてる奴”はかろうじて当時腹が立っていたのだろうかと思い出すが、果たして今現在そこまでムカついているかと言えば、特にどうでも良いかなという感じである。

最後に一つ書いてあったのが。

”人を怒らせてしまっているかもしれない”

というのがあった。

これはちょっと妙に刺さる物があった、自分で書いておいてなんではあるが。

これをメモした当時、怒らせてしまう事を反省したのか、後悔したのか、思い出せない。

怒らせないという手段も時には必要、怒らせても構わないという信念の一貫性も必要だと思ったのだろうか。

とても難しい匙加減の話だなと思った。

怒らせても構わない思想や主義の慣行であれば、それが大きなスケールなら争いになる事もあるだろう。

かたや自分を曲げて相手のご機嫌を伺うのは自分がない人間ともいえる。

どこからどこまでが線引きできるのか? 誰が線を引くのか?

店主はどちらかというと日常的に平穏の為に簡単に自分を曲げる人間であるが、ここぞという所で頑固さを持ってしまう。 それがとても相手を不快にさせてしまう事もあると思う。

そんな簡単に分かっている事でも、容易に自分でコントロールできないものである。

少なくとも、小難しい哲学の真似事を書いているこのブログは自分を曲げていないのでとりあえず良しとしておきたいところである。

ところで趣味の小説が全く書けておりませんで、小説は書くのは苦ではないのですが、物語に入り込むのに多少の集中力と、精神的なコントロールが必要になります。 店主の場合。

言うなれば、書いている最中はもはや当人は夢の中の人になっておりまして、目はうつろで、心は現世に居ないかのようなトランス状態に入ります。

近頃お店の方で色んな問題が出たこともあり、そんな目がうつろな人間がこなせるような現場ではなかったので、書けるコンディションに至らずでして。

またコンディションが整い次第再開したいと思っております。 あくまで趣味の範囲で。




2023年1月14日土曜日

河川敷ファーザー ファイナル

東海が狂気とも思える凶行に出た挙句に、振り上げられたナイフが振り下ろされるまでの間が何秒間だったのか、僅か数秒の間で、俊樹はある日の夢の中で見た光景を思い出す。

夢の中で、思いがけず面食らった場面で争いになってしまうが、思い通りに体が動かない、今すぐそこに走り込みたいのに、まるで自分の足に重りでも付いているかのように、普段ならばもっと俊敏に動けるはずなのに、恐ろしく体が重く鈍く、水中にいるかの様だ。

そう、あれはまるで、プールの中を走っている様な、そんな夢を見たことを思い出す。

振り下ろされるナイフの先端は、俊樹が俊男の元に駆け寄るに足る距離の、何十分の一だろうか。

その距離をナイフが振り下ろされるより早く、この足であの場所に入り込めるのか。

とても悲しいけれど、きっとそれは叶わないのだろう、俊樹は直観的にそれを認識してしまった。 だから彼はきっと叫ぶしかないのだろう。 

”もう止めてくれ、これ以上俺の家族に関わらないでくれ”

それが今この瞬間の彼の最たる願いであり、平穏に暮らしてきた彼ら篠崎家にとっての渇望される願いである。

だがそれを圧倒的な無感情さで突き破って押し入ってくる暴力に、人生最大限の勇気と精神力で立ち向かっている俊男。

その戦いを、命の危険を顧みず守る母親、身体を張って全員をまとめて守ろうとする俊樹の正しい道徳観は、成す術もなく暴走する純粋かつ未成熟な人間性が操作するナイフの先端で破壊されてしまう。

きっと意外と牧歌的な結末が待っていると信じていた俊樹が、ここまで来て初めて恐怖したのは、会ったことも見たことも無い、人生で関わりようの無かった狂った人間の暴走した力を目の当たりにしたからである。

俊男は雄叫びを上げて、東海の胴体にタックルを当てる。

ほんの少し、桃子から東海を遠ざけるが、それ以上は東海はビクともしない。 

中学生の男子の成長期というのは差が大きい。 人によっては1年生から一気に成長が始まるが、遅い成長期であれば高校生にならないと大きくならない子もいる。 この二人は明らかに対照的だ、一方はもうすでに180センチ近い、一方は160センチ程度、余りにも差が大きい。 

幸い桃子からは東海迄の距離は2メートル程度、だが俊男は背中を無防備に東海へと晒してしまっている、もはやナイフの事など気にも留めていない、母親を死ぬ気で守りに行っている。

俊樹の叫びは届かない、ナイフは無常に振り下ろされる。

もう駄目だ、間に合わない。

だが、そうはならなかった。

生きた魚の表面の様な煌びやかな刃はどこにも刺さらず、俊男の背中の手前でピタリと止まり、東海の顔が強烈に歪んで身体をぶるぶると痙攣させる。

東海の背後に亡霊の様に見えるバイクのヘルメットを被った黒ずくめの男が一人立って、東海の首を後ろから右腕で掴んでいる。

東海は思わず身悶えして前方に駆け出す。

黒ずくめの男は無言で立っている。

東海「誰だお前!何しやがった!?。」

黒ずくめの男「気に入らないので止めただけだ。」

俊樹は思い出す、この男、さっき土手の後方から俺を覗いていた男だ。全身真っ黒なライディングウェアーを纏っていて、フルフェイスのヘルメットはスモークになっていて表情は全く見えない。

何かの道具だろうか、両腕、胸部、腰回りに妙な装置を沢山ぶら下げている。

ヘルメットの中から無線の通信の様な雑音が微かに聞こえる。

「足田!お前、いー何やって―ー 標的はーーー!」

「悪いな幸田、ちょっと寄り道した。見逃せない案件だ、直ぐに終わる。」

東海は自分が何をされたか分からない、全身に電流が流れて身体が雷を打たれたように動けなくなった。 無論東海は雷に打たれた事が無いのだが。

これまで感じたことのない恐怖を覚える、あまりにも異様な雰囲気の大人の男に対峙して、誰彼構わずに傍若無人に立ち向かってきた彼はこの時点で、生まれて初めての気負いを覚える。

俊樹はこの隙に一気に東海の方へ走り込む。

俊樹「このガキ!お前自分が何やってるのか分かってんのか!」

突っ込んできた俊樹に顔面を思い切り殴りこまれるも、思わず俊樹を殴り返す東海。 そして二人はもみ合いになり折り重なる。 

その内に東海だけが立ち上がる、俊樹は四つん這いになって動けない。 

腹に、腹に力が入らないぞ、熱い、何だこの暑さと全身から噴き出す汗は。 

桃子「お父さん!なんで!なんでこうなってしまうの。」 

桃子が泣き叫びながら駆け寄って俊樹を支えるが、たまらず寝転んで仰向けになると、左の脇腹から大量に血が流れだしている。

俊男と他の子供達は目の前で起こっている現実に唖然として茫然自失で立ちすくむ。

すかさず黒ずくめの男が東海に立ち向かう、目の前まで迫ったところで、もはや半狂乱と化した東海がナイフを前へ突き出す。

男は左手でナイフの刃先を直接掴む、ガッチリつかんで離さない。 東海が左腕を右手に重ねて力ずくで引き抜いたが、それでも男の左手は無傷。

男はゆっくりと落ち着いた動作で、右の掌を開いて東海の顔へ向け、ヘルメットの首元に付いたスイッチを押す。

次の瞬間、強烈な閃光が東海の顔面で炸裂。 東海は顔面を手で覆いのた打ち回る。

視界を奪われた東海の元へゆっくりと近付いて、再度首を後ろから掴む。

今度は右腕の袖当たりのスイッチを左手で押すと、先程と同じ様にまた東海が一瞬激しく震えて、完全に沈黙した。

すぐさま男は俊樹の元へ近づいて、流血している箇所を確認して、何やら無線でやり取りを行っている。 

男「幸田、怪我人がでた。 脇腹をナイフで刺された人物がいる、介入したからには一般の病院は使えない。 例の病院へ俺がバイクで運ぶぞ、連絡を入れておいてくれ。」

無線「お前一体何やってんだ!なんで他人のトラブルにお前が絡んでる、おまけに怪我人だと!?」

男「悪いな、人助けだ。 見過ごせない状況だった。 たまには俺の道楽にも付き合え。」

無線「・・・。分かった、傷口にタオルを当てて縛って圧迫してから搬送しろ。 それで失血死なら運が悪いな。因みに重篤な内臓損傷の場合は処置は諦めてもらう、それが嫌なら救急救命に行け。」

男「了解。」

男は俊男と桃子に指示を出し、俊樹を自身の身体に積載していた積み荷積載ベルトで固定して銀色の大型バイクにまたがり、エンジンを掛ける。 強烈な低音で周囲の雑草が細かく震える程の低周波がこだますが、決してうるさい音量ではない。

去り際に一言言い放つ。

「ガキ共、もし次にこの家族に近付いたら。 一人残らず、必ず、殺す。」


~2週間後~


夏の夕方の雨は大抵決まってゲリラ豪雨だ、父さんは昔は夕立だったと言っていたが、夕立とゲリラ豪雨の差が何なのかを聞いたら、こう言っていた。

「夕立はさ、サイダーみたいな感じだよ。 シュワーってしててな。 雨なんだけどな、気持ちいいんだよ。 その後晴れ間が戻ったら虹が掛かったりするんだ、当たりが真っ赤に染まってな、そこらから晩御飯のカレーの匂いがしてきたりする。 ゲリラ豪雨とは違う。」

「ふ~ん、なんかよく分からないけど昔にしかなかったんだね。」

ゲリラ豪雨が迫りくる最中、喪服を着た桃子がコンビニで傘を買って戻ってくる。 

傘を俊男に渡して、二人で葬儀会館前で並んで立っている。

俊男「母さん、あれから東海君は学校にも来てないよ、事件にはならなかったけど。」

桃子「うん、、母さんね思うんだけど、あの子、誰かに止めてもらいたかったのかなと思って。 あのバイク乗りの男の人、良く止めてくれたわねぇ。 あの子、自分でももうどうやって自分を止めたら良いか分からなかったんじゃないかしらね。」

俊男「そんなの勝手だよ、あんな無茶苦茶しておいて。」

桃子「子供からするとねぇ、そうよねぇ。 だけど大人がしっかりしていればあの子があそこまでおかしくなることってない様な気もするのよねぇ。 廻りの大人がそれで良しとしてきた環境だったんじゃないかしらね。」

そこへスピードを上げた白いワンボックスが二人に近付いて停まってウインドウを下げる。

俊樹は苦笑いしながら言う。

俊樹「ごめんごめん!遅くなった、この葬儀場、駐車場が広すぎて何処に停めたか分からなくなってしまった」

俊男「だから入り口近くに停めた方が良いって言ったじゃん!」

俊樹「いや~すまんすまん、奥の方が落ち着くんだよ。さぁ乗った、帰ろう。」

車中でタオルで頭を拭きながら俊男は幾つかの気になっている事を俊樹に聞いてみる。

俊男「お爺ちゃん結局何歳まで生きたんだっけ?」

俊樹「90歳だったな、、、まぁ最後は眠ったまま逝っちまったからなぁ、それはそれで苦しむ事なくて良かったのかな。」

悲しそうな表情で言う俊樹に重ねて聞いてみた。

俊男「全然違う話だけど、父さんあのヘルメットの人と病院で話したんでしょ?どんな人なの?」

俊樹「それは、、、絶対言えない、話さない約束。 多分、良い人ではないみたいだ。 だけど、悪人でもないというか。 ただ言ってたよ、俊男も俺も桃子も、凄い勇気だと思うって。 だけど次からは相手の指定地には赴くなってさ。」

俊男「なるほど。」

ゲリラ豪雨は止んで、雨上がりの空が夕焼けに染まる。 車内が真っ赤に染まって、俊樹は嬉しくて笑ってしまう。 

笑うとまだ傷口が痛い。


完


書いておいてなんではあるが、後半の出来の悪さは自身でも容赦し難い物がある。

う~ん、小説って難しい。

短編と決めていたので、4話で完結させないといけないという縛りもあってか、ディテールにまで解説が及ばないのと、俊樹が生き延びたのか死んだのかをもっと上手くサプライズできたように思うがそうはなっていない。

長編であれば、東海のその後も描けるが。

またはヘルメットの男の登場のさせ方ももう少し工夫が必要である、ここだけ読んでもなかなかヘルメットの男の正体は当然つかめないが、書き方次第でそれに纏わる別ストーリーが展開されているのだろうと想像させることは可能であるから、ここではあまりにも稚拙な登場と言えると思う。

気を取り直して、次のお話を書いていこうと思います。

次は

”キエル魔球”

というお話。



2022年12月29日木曜日

2022 年末のご挨拶

 誰しも大なり小なり持っている物なのかと思うが、店主の場合においては仕事モードスイッチというのが明確に機能しており、スイッチをOFFにしてからもう既に3日が経過した。

しかしながら毎晩見る夢は仕事の夢ばかりで、一昨晩などはブログで書けない程に奇妙な夢を見てしまったもので。

あまりにも奇妙だったので、たとえ夢であっても書くのは憚られるのである。

それはそれとして、スイッチがオフになると酷い集中力の下がりようでございまして、先日の食事会などは約束の時間の10分前に着こうかと思っておりましたら、丁度時計の短針一周分を戻した状態で気付かずに動いてしまっておりまして。

結局1時間丁度早く着いてしまったので、近くの喫茶店で1時間を潰すことに相成りました。

滅多に流行りの喫茶店など入らないものですから、無糖と砂糖どっち?とお若いお嬢さんに聞かれたものの、叔父さんは上手く聴き取れずに、「レギュラーかな。」と答えてしまう始末で。

お嬢さん笑ってくれれば良かったんですが、ムスッとしたまんまであまり愛想は良くなかった印象なもので、カチンときてついつい説教してしまいそうになるのを堪えて、「あ〜、こりゃ失礼、無糖でよろしくお願いしますね」と答える自分に、気が長いのか、意気地がないのか、こういう場合どっちに数えるのが良いのかと暫く考えてしまいました。

そんなやりとりがあった手前に、ちょっとしたハプニングがあったのですが、お店の入り口にあった足拭きマットが捲れていたので、自動ドアを越えながら、右足でパタパタと戻してやろうと適当な事をやっていたら、空いていた自動ドアが戻ってきて閉まろうとするもんで、慌てて身を引いたのですが、店主の無駄に細く長い首だけが挟まりそうになりまして。

おいおい、これで首だけ挟まって、想像以上に駆動力が高かったら頸椎を痛めてしまうのではないかと焦ったもので。

慌てて右腕の肘を壁に、掌をドアに当ててつっかえ棒にしたまでは良かったのだが、その力が恐ろしく強く、機械的な力が人力を圧倒的に上回るその時に感じる少しばかり無慈悲な力差というのを身体が感じると、どこかに置いてけぼりを食らった様な、ほんの少し悲しい気持ちになるのです。

オートバイで事故を起こした時も似たような気持ちになったりします。

まぁ強烈な圧力を感じた後に安全装置のセンサーですぐに開放されましたが、その焦りを残したままのレギュラーの回答でしたから、致し方ないと付け加えたい。

そんな訳でございまして、久しぶりの長期休暇に入り今年の残りもあと僅か。

今年の締め括りのご挨拶の更新となります。

本年中も変わらず芦田屋をご愛顧頂き、誠にありがとうございました。

今年はとにかく忙しく、昨年までは休み休みで旅をご一緒したり、作業の合間に度々談笑を楽しむ余裕が沢山あったのですが、その点では折角のご来店時にあまり楽しんで頂けなかったのではないかと申し訳なく思う事が多々ございました。

来年は淡白な一年とならない様に、多少の遊び時間を持てる一年になればと思いますが、この調整というのがまた難しいものではございます。

一抹の懸念を残しつつ、新たな一年も何卒芦田屋を宜しくお願い申し上げます。

芦田屋店主






2022年12月16日金曜日

河川敷ファーザー Vol.3

青く生い茂った土手に生えているのは芝と呼べるのか、それとも単なる雑草なのか?

そんな事を思いながら顔を上げ続けて歩く、一歩一歩、自分の勇気と生存を確かめる様に踏みしめる。

俊男は思う、こんな恐くて孤独な気持ちは生まれて初めてだと。

もしかしたら傍から見ればどうってことも無い、どこにでもある様な仲の良さそうな子供たちにでも見えるだろうか。 もしそうなのであれば、余計に悔しい、大人がしっかりしていれば、大人がもっと見ていてくれたなら僕はこんな目には遭わないのではないか。

何故守ってくれない、何故僕を救ってくれないのだ。

もういい、僕一人でも戦うしかない。

俊男はたった一人で、6人の少年達に対峙する。 中でも一際背の高い東海少年が口を開く。

東海「おい俊男、おせぇぞ、あぁ?」

俊男「・・・・。」

東海 「てめぇ、舐めてんのか?返事しろおい!」

俊男「うるさいなぁ、”俺”は走って来たんだよ、それでも遅いってことは設定時間に無理があるってことなんじゃないの?」

東海 「こいつ、、、!」

俊男は全身の筋肉に緊張と恐怖による痙攣が起き、生物的な反応で言うところの、逃走準備段階に入っている事を察したが、俊男は生まれて初めての経験になるであろう、拳を握った。

東海の振りかぶった右腕が全身の捻り運動の補助を経て、俊男の顔面に向けて強烈なスピードで振り下ろされる。 

俊男と東海の身長差はかなり物で、まるで上空から降って来る隕石の様だ。

俊男は両腕でガードする、意識したものではない、咄嗟に恐ろしさのあまり無意識に顔を守ろうとした所作に近い。

東海の拳が俊男の腕にめり込む。

俊男「ぐっ!」

恐ろしい威力だと思う、東海君は空手を小学1年生から習っているらしい、空手のパンチはこんなに痛い物なのか。 

東海「お前さ、マジで殺されたいの? 10万だよ10万、早く出せよ。」

俊男「うるさいんだよ、ある訳ないだろ!10万なんて!なんなんだよ!」

俊男は右腕を大きく振りかぶって、東海同様のパンチを繰り出そうとするが、やはり生まれて初めて人を殴る人間特有の遠慮と殴る事への恐怖が入交り、大袈裟な動作になり、あわよくば避けてもらいたいと思っているのではないかと思うほどのパンチである。

難なく避ける東海、しかし、俊男は打算していた。

余裕を持ってかわした東海に体ごと強烈なタックルを喰らわせる、そのままの勢いで倒しこんで馬乗りになった。

東海「俊男てめぇ!」

東海が発する殺気が一気にボルテージを上げる。

一気に場の空気が変わる、凍り付いたように周囲は東海の殺気につられるように嫌な空気が漂う。 

その頃俊樹は、激しく咳き込むほど全力疾走した後に何とか河川敷まで到着して、土手の手前から俊男の様子を伺っていた。

俊樹の胸に去来する複雑な思い。 

果たして中学生の喧嘩に40後半のオッサンが割り込んで、大人の力でねじ伏せて安易な解決を図っていいのだろうか? 

そりゃ本気になればさすがに中学生相手ならもし暴力沙汰になっても抑え込めるような気がする。 俊男も守れるだろう、それで連れて帰って、ハイめでたしでしたとなるのか?

そもそもなぜ俊男はあんな連中と絡んでしまったのだ。 母さんには悪いのだけど、まぁ所詮は中学生の喧嘩、男の子なら時にはこういう事もあるし、こういう場面をくぐっておかないと後々に影響しそうな気がする。 ひとまず様子を見てみよう、危ないと思ったら飛び込もう。

そう思う俊樹の胸に去来する一抹の不安要素。

以前ゴミ回収業務の最中に会社の先輩に言われたことがある。

「篠崎さぁ、グレたことないだろ? お前さん真面目過ぎるよ。」

「はぁ、自分は特に反抗期とかなかったもんで。」

「気を付けないと、お前さんさっき普通に話してた男、あれはヤバい、次から無視しろ」

「え、でも普通に話しかけられたもんですから」

「世の中にはな、どうしようもない悪ってのがいるんだよ、悪でも2種類いてな、まぁ人の心持って明るい不良ってのをやってるやつと、人の心を捨てた悪魔みたいな奴がいるんだよ」

「あぁニュースとかで、、、」

「バカだなぁ、そりゃたまたまニュースになっただけで、そういう奴は候補生としてその辺にごろごろいるんだよ、いつ殺人者になってもおかしくない連中だよ、いいから誰とでも愛想よく話すのはやめときな」

「そういうもんですかねぇ」

人の心を捨ててしまった悪。 俊樹にははっきりとそういう人物がどこの誰なのか現実味がなかった。 まさかこういう連中がそうだったとしたら、どう対応すべきなのだろうか。

その時、土手の下でワッと声が上がり、砂煙が舞う。 汗が目に入ってよく見えない、だけど殴り合っている? 俊男が?

思わず、立ち上がって飛び出しそうになるが、ここでもぐっと堪える、待て俊樹、まだ早い。 俊男は自己解決に向けて全身全霊で戦っている、ここで水を差すのか、いやダメだ。

どうにもならないと明らかな場面まで待機だ、いやしかしもし取り返しのつかない事があったら、、どっちだ、どっちが正解なのだ。

子供の自主性? 子供の保護? 

更に土手の下が騒がしくなる、今度は俊男が馬乗りになっているようだ、まさか俊男が優勢なのか。

その時妙に背後の方から凝視されている気配を感じたので振り返ると、全身黒づくめの妙な男が遠くから見ている事に気付く。 ヘルメット?

土手の方では、東海が唸り声を上げながら俊男を両手で下から体ごとリフトアップする、そのまま捻り倒して地面に叩きつけた。 埃を払いながら東海はじっくりと俊男に迫る。

軽い動作で右足を腰の高さにゆっくりと上げたのち、俊男の脇腹狙いの様な蹴りを繰り出したと思った瞬間、膝辺りからくいっと高度を変えて顔面目掛けて蹴りを繰り出す。

俊男は左のこめかみ付近に強打を喰らう、まるで低速の紙飛行機の様によろよろと倒れそうになり膝をつくが、倒れない。

俊男「ふう、、痛いなぁもう」

俊男の中で何かが吹っ切れた、もうどうでもいいやと思った。 全部どうでも良い、死んだって良い、そう思った。

武力では勝てない、頭を使うんだ、IQで勝たないと、あんなキックをもう一回喰らったらもう立っていられない。

左手で手を着くふりをして砂を思い切り掴む。

砂を掛けて目くらましだ、右手は石を掴もうとするが、やはり諦める。 そんなことをしたら人を大きく傷つけてしまうかもしれない。 ならば素手で急所を狙うしかない、首だ、何とか背後に回ってチョーク何とかというやつをやってみよう、それなら非力でもやれるかもしれない。

東海「なめやがって篠崎、お前だけはマジで殺すからな、絶対殺す」

俊男「だからなんで俺が殺されなきゃいけないの?」

その瞬間、俊男は思いっきり砂を東海の顔面に目掛けて投げつける、が、動作を悟られ、東海のガードが一瞬速かった為、不発。

だが俊男は東海のガード時間を使い、東海の少し左側へそれた位置へ向けて猛ダッシュで突っ込む、右サイドにあった大きめの石を蹴って、反動の動きを使い三角飛びの要領で両手を思いっきり伸ばして首へ巻き付ける。

掛かった!腕が絡んだ。 このまま締め上げる!

だが東海は右腕を前へ出して、肘を思いっきり俊男の脇腹へ叩き込む。 

俊男は大きく前のめりになっていよいよ、地面に頭から崩れ落ちる。 

息が出来ない、苦しい、死んでしまう。

そこへ目を血走らせた中年男性が土手を駆け下りて大声で何か叫びながら走り込んできた。

俊樹「俊男!大丈夫か? 君たち俊男と同じ中学の子だろう、もういい加減にしなさい!」

東海「あぁ?オッサン誰なの? なんなの?」

俊樹「俺はこの子の父親だ。」

東海「あぁそうなの、じゃあ話早いじゃん、俊男に貸してた10万代わりに返してよ。」

俊樹「え、、貸してた?そうなのか俊男。」

俊男「父さん、、そんなわけないじゃないか!」

俊樹は動揺する、大人が駆けつけたところで一旦引くのではないかと思っていたが、引くどころか平然と嘘までついてきた。

引いてもらわないと、大事になってしまう。 警察を呼ぶようなことなのだろうか、そんなたいそうな事とは思えないが、、。

俊樹「とにかくこの場は君たちもう帰りなさい、こんなところで騒ぎを起こしてしまったらいい事は何もないぞ」

東海「うるせぇ!オッサンお前もやっちまうぞ。」

俊樹「は?」

東海「お前らこのオッサンボコっちまえ、俺は俊男を殺す。」

俊樹「ちょ、まてまて、おいおいおい」

俊樹は先輩の言葉を再度思い出す。 

世の中にはどうしようもない悪ってのがいるんだよ、そいつらはどうにも止められない、そういう奴が人を殺すんだよ。

まずいと思った時には背後から背中を思いっきり蹴られる、ここまでされては大人の俊樹も流石に怒りが込み上げてくる。

蹴りを入れた仲間の一人を思いっきりヘッドロックして引きずり倒す、そこへ前方からまたもう一人、飛び蹴りで俊樹の顔面に蹴りを入れる。

たまらずヘッドロックをほどいてしまう、そのまま蹴ってきた少年の足を右手で掴んでまた引きずり倒す。

こいつら、本気で殴ってやろうか、と思うが、まだ迷う、大人が子供を相手に本気で殴り合って良い物か? 

と思った瞬間大勢から一気に畳みかけられる、何か固い物で思いっきり頭を殴られた感じがする、石か? 体温より少し暖かい位の液体の感覚が鼻を伝っている、頭を石で殴られたのか、なんだこいつら、本当に中学生か、残酷過ぎないか。

隣で東海が俊男を跪かせ、顔面に思いっきり前蹴りを叩き込む、あっけなく俊男が後方へ吹っ飛び後頭部を強打する。 

それでも俊男は立ち上がろうとする、全身全霊の力で体をぶるぶると震わせながら、立ち上がろうとする。 

俊樹が声にならない叫び声をあげて東海へ突っ込む。

俊樹「お前何やってんだ!この野郎!」

俊樹は助走をつけた強烈な右パンチを東海の顔面に真横から叩き込む、ゴムの塊を殴ったような妙な感触が拳に伝わり、東海がよろける。

俊樹はその時東海の目を見た、その目はかつて俊樹が中学生だった懐かしき時代には見たことがない、寒々しい、人の感情を見ることが出来ない恐ろしい物だった。 昔ニュースで見たような、そう、どっかで見たことのある殺人犯の目。

東海は右ポケットから細長い華奢な物を取り出して折り畳まれていた物を折り返して伸ばす。 ナイフだ。

背筋が寒くなる、この子は普通じゃない。 とても話し合いをできる状態じゃない。

その時、女性の大きな怒鳴り声が聞こえ、中年女性が走り込んできた。 

桃子が追いかけてきた。

東海と俊男の間に入り込み、桃子が真正面に対峙する。

桃子の顔は青白い、これは本当にまずい、桃子の血圧は確実に下がっている。 極度のストレスのせいか、不整脈が連発している。 

東海「お前誰だよ、全員殺してやろうか?あぁ!」

この少年、なんなんだよ、まともじゃない。 こんないかれた中学生が世の中に居るのか、どうやったらこんなガキが出てくるんだ。

俺が何とかしないと。 さいしょから警察に電話するべきだった、遅すぎた。 こんなに大事になる程おかしな子供だと思わなかった。

スマホを取り出したところに、背後から強烈な蹴りを喰らう、衝撃でスマホを落としてしまう。 残りの仲間も殺気立っている、これは完全につられている、この長身の少年の勢いに影響されておかしくなってしまっている。

少年の一人「オッサンの相手は俺がやってやるよ」

俊樹「お前ら、もう許さない、、。」

俊樹は少年の一人を思いっきり殴り倒し、後ろに構えていた少年にまた近づく。

更に鳩尾に思い切り蹴りを入れる、少年はかろうじてガードするが、後ろへ倒れ込む。 40後半の年齢とはいえ、14歳の少年達との力の差はやはりかなりのアドバンテージだ。 

一人一人なら負けることは無い。 だが、問題はあの長身の少年だ。

残り3人と対峙している間、横目に東海が桃子に近付く様子が入る、まずい、助けに入らないと。 だが、背中を見せた瞬間恐らく残りの仲間たちは襲い掛かってくるだろう。

万策尽きて頭が真っ白になりかけた時、東海に飛び込む影が見える、俊男だ。

俊男が立ち上がって、ナイフを持った男に飛びかかる。

東海が背筋が凍る様な寒々しい薄笑いを浮かべて、ナイフを天高く振り上げる。

俊樹は叫ぶ

”ダメだ!止めろ止めろ! 止めてくれ!”

続く


何だかちょっとバイオレンスなシーンが続いてしまいましたが、この問題の本質は暴力シーンとは全く別の所にあります。 店主はそんなに社会的な人間ではないので、それが伝わるかどうかは特に期待していることも無いのですが、でも自身の再確認として、その時々に子供の育成という所の本質的な問題を書くことで落とし込むという作業に近いかもしれません。

こういった形になったのは、先日申し上げました旭川の事件の事もありますし、地元の殺人を犯してしまった少年が割と近くにいたせいもあります。 しかも1人ではなく。

東京に来て、平々凡々と暮らしておりますと、且つてそういった凶暴な人達の事を思い返したりしますが、いつも思い返すと、そういった少年達の家庭環境に、ある一定の少なくない問題点というのを思い返すことが出来ます。

店主自身は比較的平穏な家庭に生まれたのですが、それ自体がとても幸運な事だと思います。

親ガチャなんて言葉がございますが、まぁネーミングは別として、それは実際に家庭環境という物の一人の人間に及ぼす強烈な影響力を少し怖く思ってしまいます。

ごくごく、平凡な当たり前のことが、ある家庭では到底叶えられない様な、望むべき失われた幸運だとしたら。

それはとても怖いのでございます。

それは親次第、そして周囲は介入できない密室の世界だからなのです。

その問題に介入する職業の人たちがいます、介入の限界に挑戦しつつ、日々格闘するお仕事をする方たちもいらっしゃいます。

そういったお仕事をなさっている方たちの仕事と活動が一人でも多くの少年少女の救いとなり、効果を得やすい仕組みと社会になる事を願ってやみません。

自分はバイクをいじりながら、それでもバイクをいじりながら、そうは思っておるのであります。 思っているだけで何もしていません。

それが芦田屋店主であります。






 

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