2022年10月6日木曜日

河川敷ファーザー Vol.1

 無関係を装った様に害虫駆除の紫外線ライトがバチバチと音を立てているその下で、まるで自分とは別世界の出来事の様に、篠崎俊男は心臓と胃の間辺りに何かとても痛く切ない物を感じていた。

「だからよ、俺は最低でも10万って言ったよな、俊男、お前なめてんのか?」

細身で長身の少年が言う。

「ごめん、でももうこれ以上は無理だよ、ごめん。」

小柄で華奢な俊男は1万円札を持つ手を出そうか引っ込めようか、手を震わせながら言う。

俊男は柄の悪そうな少年数人に、午前0時も過ぎた頃、取り囲まれている。

長身の少年「お前、マジで許さねぇ、絶対明日までに10万用意してこい。 できなきゃマジで殺しちゃうよ?」 

俊男 「ごめん、、、許して下さい、、。」

長身の少年 「うるせぇ!ごめんで済んだら、、、なんだ、アレだ、アレだぞ!」

「ギャハハ!なんだお前その続き分かんねぇのかよ、マジかよ!」

周囲の少年達の下卑た笑い声が静かな深夜の住宅街に響き渡る。

俊男はこんな時いつも思う、コンビニだって大人の住んでいる世界だ、この世界は大人に溢れている、だけどどの大人も僕を助けてくれない。 きっとこのコンビニの店主も気付いている筈だ、僕がこんな目に遭っている事を。

父さんや母さんもそうだ、誰か、誰かに助けてもらいたい、誰でもいいから僕を守って欲しい。 不良グループの少年たちが虫よけのライトに感電して退散してくれないかと夢想している直後、腹部に強烈な痛みが走った。

長身の少年が俊男の鳩尾辺りに強烈なパンチを喰らわせる、仲間達に笑われた腹いせだろう。

俊男は腹を抑えて蹲り、呼吸を整えることに全神経を集中する。

何故か泣けてきた、なぜこんなに悲しいんだろう? 途端に母親の財布から1万円を抜いた時の光景が蘇る。 それがとてつもなく悲しくて、俊男は嗚咽する。

細身の少年「明日までに10万用意してこいよ! 夕方河川敷で待ってるからな。来なきゃどうなるか分かってんだろな。」

これ以上は無い陳腐な決め台詞を吐いて不良グループの少年たちは去って行った。

翌日の朝

俊男の母親 「トシちゃん、起きなさい、学校遅刻するわよ。」

明るく優しい声で俊男を起こす母親は、心臓に持病を抱えており、働きには出ずに俊男が生まれる前から専業主婦として篠崎家の家内を守っている。 病弱ではあったが、いつも明るい母親が俊男は好きだった。 

対して俊男は父親の篠崎俊樹が嫌いだった。 悪い男ではないが、学校で深刻ないじめに遭っているのはこの男のせいだと俊男は思っている。

父親である俊樹は高校卒業から一貫して地域の清掃局に勤めており、ごみ収集のトラックを運転して収集清掃業務を極めて真面目に勤務していた。 

いじめの発端となったのは、俊男の通う中学校の先輩不良グループに俊樹の仕事を知られた事が発端だった。

俊男自身は父親の仕事を何とも思ったことはなかったが、不良グループの先輩に臭い仕事だと罵られた、俊男は歯向かった、父さんは臭くはない、寧ろ良い匂いだと。 ゴミは臭いけど、皆が出しているだけで、父さんは関係ない!

それ以来、俊男は事ある毎に不良グループの標的となり、その陰湿ないじめはいつしか恐喝へと変貌を遂げ、今や俊男は自らの命すら危機に晒されていると感じている。

俊男は日々悪化する自身の状況に強烈な孤独と将来への不安を感じていた。 まるで永遠に終わらないホラー映画を観ているようだと思っていた。

いつしかその苛立ちは、発端となった父親へ向かうようになり、父親をつい罵ってしまう。

俊男「母さん、父さんはもう仕事に行ったんだよね?マスクして深めに帽子被って欲しいって伝えてくれた?」

母親「トシちゃん!なんでまだそんなこと言ってるの、父さんはこの街を奇麗にしてくれているのよ、なんで顔を隠す必要があるんですか!」

俊男「母さんには分からないよ、僕が、、、、」

俊男はその先が言えない、いじめられている事はとてもじゃないが言えない。

その日の夕方

俊樹の清掃局の仕事は朝も早い、それ故業務を終えて帰宅する時間も夕方頃には帰宅になるが、当然ながら翌日の早朝も朝4時半には起床だ。 しかし、俊樹は勤続開始以来、皆勤を続けていた。 

母親「俊樹さん、ちょっと話したい事があるんですけど。」

俊樹「うん、どうしたの? 何かあったの?」

母親「トシちゃんの様子がちょっと気になるのよね、、実は私の財布からお金を持って行ったみたいで。」

俊樹「え、、、そうなの?なんでだろう、小遣いが少ないのかな?」

母親「そんなことないと思う、だってあの子スマホも持ってないし、たまに小説を買うくらいしかお買い物しないから。」

俊樹「う~ん、1万円か、高額だね。 黙って持って行ったことは良くないんだけどなぁ、事情があるのかなぁ」

母親「私ね、ちょっと思うんだけど、あの子いじめに遭っているような気がしているの。私も子供の頃いじめられていたから、分かるのよ。 時々凄く恨めしそうな眼をする時があるの。 それにね、一回だけ唇を怪我して帰ってきたことがあったわよね。」

俊樹「あぁ、それは、、、母さんの事は知ってるけど、俊男も? なんであいつが? 確かに怪我はしてたけど、ほらあれは友達とじゃれてたら手が当たったって言ってたけど、、」

母親「いえ、何だか話してたら凄く嫌な予感がしてきたわ、あの子昨日の夜も夜中にコンビニ行ってたでしょ?おかしいわよね、何も買って帰らなかった。」

俊樹「確かに。1万円あるのに手ぶらか。 分かった、あんまり気は進まないけど、今日俊男が帰ってきたら事情を探ってみよう。」

そう言いながら俊樹は篠崎家に立ち込める非日常の空気感に、不安が募った。 これまで毎日家族3人で楽しくやってきた。

俺はこの家族に何かあったら命に代えても守って見せる。 だけど仕事を頑張る以外に取り柄がないからな、もし俊男がいじめられてたら、いじめている本人に何か言えるだろうか?

いやいや俊樹、お前がここでビシッと父親を見せるんだ、それが父親だろう。

俊樹はそう思いながら、優しく繊細な母親に笑顔で応える。

俊樹「大丈夫!何があったとしても必ず僕が2人を守るよ。」

続く


前回の続きでまた脳内小説の備忘録化を進めてみたいと思い書き連ねております。

時間が掛けられないので細部まで考察したり、取材したりして事実や現実に則して書くことはできず、お目汚しとなりますが、どうかご容赦くださいませ。

と、体の良い事を書きましたが、最近日本の政治に憤慨気味なのが、このブログに出てきてしまいそうで、それはそれでブログとして良くないと思いまして。

それもありつつ、当たり障りのないネタでダラダラ書いても仕方ないので、この際こちらでも下らない私小説を書いていこうかと思ったりしています。






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