「東京外国為替市場の円相場は高値で横ばいになっています。 1ドル110円45銭~47銭の高い円高水準となっており、日本
店内の天井隅に設置されたテレビから為替のニュースが事もなげに
幸田は素早くざっとの計算で自身の外貨資産を脳内で暗算していく
「なるほど、つまりこういうことか。 種田さんは國山の言う事を信じた。 その根拠として彼の脅威的な野球技術は人間の肉体的な限界を遥か
「まぁ簡単に言うとそういうことになるね。勿論それだけではない
幸田の質問は端的にこうだった。
「どこの誰が宇宙人で、ここにいて何をしているのか?」
幸田の席から3つ離れたカウンター席で足田は警戒を解かない。 気になっているのは先程出て行った山ちゃんと呼ばれる男。
奴は恐らく帰らない。 種田に言われて渋々店を出たが、出た後に一切店内を振り返らなか
それに、店を出て行ってしまって、この後店内の様子を確認出来な
種田との接触の後、奴と接触する可能性は極めて高い。 即戦闘になる可能性もあるので、先回りで戦法を張り巡らせる。 幸田も恐らくそこは織り込み済み、俺がそっちを自発で担当して段
故に奴は今謎解きに夢中だ。
俺はそっちには全く関心がないが。 半グレ同様、奴が危険な人物であれば俺の監視対象としては成立す
「ん〜、種田さん、やっぱりちょっとよくわからないんだけどさ、
「そう、アンタの予想している通りだと思うよ。 國山は、プロ野球になる前に精神的には一度は死んだ。 言い換えれば、國山は肉体を宇宙人に乗っ取られた。」
「マジか、、。」
流石の幸田も呆気に取られる。 ファンタジーにも程がある。 足田は少々アホくさくなってきて飽きてきていた。
「ではアンタはプロ野球選手現役の間、乗り移った宇宙人と戦って
「結果的にそうなるね」
「ますます分からない、乗り移った宇宙人、一応國山と呼ぶが、乗
そこは無関心の足田も率直な疑問に思う。
"何故宇宙人が野球をやっている?"
かなりの沈黙が続いた。
せっかちな幸田も先を急がせない、何故なら何となくだが、先程の
「この話は恐らくとても危険だから余りしたくないのだがねぇ。 アタシももう歳だし、年甲斐もなくトラブルはごめんだ。 実はこの店もね、後もう少しで畳もうかと思っていたところでね。
「話をする事自体が危険なの? 少なくともここには俺達3人しかいないが。」
「彼等はどこにいても聞いてるさ、必ずね。 でも、もう良いかな。 こうやってはるばるこの問題に首を突っ込んでアンタらが聞きに来
当時ね、國山さんが何故アタシにこの話をしてくれたかは、ハッキ
時は遡り、30余年前。
プロ野球シーズンも中盤に差し掛かって、先発投手として、投球の
その晩の阪神ブレイブスと中日キングスのゲーム終了後。
種田が帰路に着く為、車に乗り込もうとしていた所に國山は突如現
「タネニャン、こんばんにゃ。」
「國山さん!何故こんな所に?」
「タネニャン、たらい回しに行こう」
「たらい回し?何を言ってるんですか?」
「ボケ! たらい回しを楽しむお前達!」
「ボケって…ひどいな。 たらい回し、、あぁ、ひょっとしてドライブの事ですか?」
「あぁ、それ。 ドライブ、貴様と話をしたい。」
「貴様って…失礼だな貴方。 分かりましたよ。」
種田は戸惑いながらも、当時から独身なのでどちらにしても試合が
気味が悪く思いながらも、あの天才スター選手が誘ってくれた事に
ナゴヤ球場を後にして、車は名古屋首都環状線をゆっくりと走って
「この車は何と言う車にゃ? 楽しいな。」
「そんなに特別な車じゃないですよ、トヨタのクラウンです。 地域柄、トヨタの方が何かと印象が良いんですよ。 1974年式でクラウンとしては4代目。 通称クジラクラウンと呼ばれています。 人によってはブタクラウンとか言ってましたね、当時は3代目に比
「そんなクソ車に何で乗ってるのだ?」
「クソって…何なんですかさっきからアンタ一体。 國山さんってちょっと頭変ですよね?
この車はね、何だか自分に似てる感じがしてね。 この車はピカイチで内装が美しい、デザインも機能も当時から他の
それがね、消える魔球を投げ続ける自分とちょっと似てるかなって
「なるほどな。 確かに、このココのあたりとか良いな、この具合が。」
そう言って國山は握った握り拳でダッシュボードを思いっ切りパン
「おい!國山!何やってんだアンタ!」
「ん?ああ、気にするな種田、良い事だ。」
「はぁ?何なんだ一体、、」
「種田、野球好きか?」
「いきなり何なんですか? 野球好きかって、複雑ですよ、好きだけどね。 そう簡単に割り切れるモンでもない。 特に私の場合、消える魔球が無ければ、誰かを投げ取れる球種を持
言い換えれば、消える魔球が無い私は高校球児以下の草野球チーム
だけど、好きだから、誰よりも練習はしてきたつもりです。
だけど、そんなにうまくはならなかった。 ギリギリ崖っぷち、プロ入り出来たのもドラフト外でしかも練習生
「その練習生時代に消える魔球を会得したってな。」
種田は思う、この人野球になると急に普通に話し始めたな。
「そうです、練習中に汗で手がべとべとになって、球が滑って失投
「一瞬球が見えなくなった、ブレてボヤけた。と。」
「そうです、あり得ないと思いつつ、似た様な投げ方を何度も何度
ただ、あの球種を投げる為に、異常な力みと手首のスナップを使い
「そうやってこの我輩を討ち取るのか。 素晴らしい。 あの球は我輩の解析データに数値的にも情報が上がってこない。 だから我輩でも殆ど打てない。 我々の技術を駆使しても解析できない極めて異質な現象だと本部は
貴様に出会うまで、報告書には野球文化は我々の時代には不要であ
残すべき文化として報告を上げたのだが、本部は保存条件不足とし
我輩はそれに反発して、監査員を入れ替えるなら交代要員を消去す
種田どう思う?」
「いやいや、何の話か分かりませんね、何か文化の査定でもしてる
「役所ではない、お前達地球人によるこの惑星の支配権与奪を検討
「頭おかしいのかアンタ、ちょっとやめてくれ」
「この男の頭は特に異常検出されていない。実体としては我輩はこ
お前達地球人の技術でも脳科学の分野においては原始的な脳波通信
ただ、意識に介入して脳をコントロールする所までは遥か遠いがな
そうして、この惑星における人間すべての活動、自然環境、惑星近
「その話、俺はどうやって信じればいい?」
「それは想定通りだ、準備してあるので証明しよう。 その代わり、信じてもらえるのなら、手伝って貰いたい事がある。
「バカバカしい、どうせ先に何を手伝うのか聞いても教えてくれな
種田はもはや、冷や汗が止まらない、車の隣に載せた男が、宇宙人
あまつさえ、地球人はどうも危ないらしい。