2024年8月1日木曜日

キエル魔球 ~種田ホープ軒~ その4 種田と國山

足田は隣で聴いていてあくびが止まらない、昨晩はネットで中国系の半グレの拠点情報を漁っていて殆ど寝ていない。

種田の話を真剣に聴く幸田は感嘆の声を上げる。

「なんつー面白い話だ!ブラボー、種田さんアンタ最高に熱い体験をしたね。 本当のはなしならね。」

「信じられないだろうし、そんな事が起きていたのに今この国は、この世界は今も続いている。
そう思うのだろう?」

「そうだね、國山は簡単に言えば担当がスポーツ文化の価値判定担当要員だった訳だから、何かしらの謀反を起こした所で、野球文化を残す程度の力しか無かった事になるよね。 
それともう一つ、國山がスポーツ文化担当だったとして、判定基準となる項目が多数あると仮定すると、宇宙人は無尽蔵に居るという事になる。」

「そうなるね、実際には居ると言うより、項目分のコントロールされている人間がいるって話になるがね。 謀反の話は全く想像出来ないよ、スケールがデカすぎてね。 だって考えてご覧なさい、人でも国でもない、どっかの星の話じゃない?
こんな野球人崩れに國山さんが何やったかなんて分からないよ。」

「なるほど、で、さっきの山ちゃんって奴はその片割れって事になるのかい?」

「彼は、きっと監視員じゃないかな。 アタシを監視していると思っているよ。 もう何十年も、國山さんが消えた頃からね。」

「何故? 何故人間の、いや地球人のアンタが監視される? もしかして國山の謀反に一枚噛んでたのか?」

「そうなるのかなぁ、國山さんにはそういう説明は受けなかったが、少し手伝った事がそうだったのかも知れない。 あの時、預かってくれって言われた物がそうなのかも知れない。」

種田は思い出す、あの懐かしいクラウンで國山と二人でドライブした夜の事を。

國山はとても支離滅裂な印象で、理解するには程遠かったが、話しているうちに、一つだけ分かった事があった。

彼は単純に野球が好きだった。

そして野球を通して、人間として暮らし、人間と交流する内に人間の内面的な部分に好意的な意識を持ち始めたのだろう。

それが必要以上だったのかも知れないが、当時も今も本人からそれを聞く事は叶わなかった。

種田のクジラクラウンは夜の名古屋を走っていく。 

名古屋首都環状線を出て、第二環状線をゆっくりと回っていく。 2リッター直列6気筒の排気量は当時ではかなり大柄で高級車としてのプライドを感じさせた。

ゆったりと寝そべる様に助手席に乗る國山は目を閉じて、ボソボソと喋る。 

さっきまでの勢いはなんだったのだ、証明してやるって一体何をするつもりなのか。

「こっちの星でクソミソに言ってるほど、決して何もかもが悪い訳ではにゃいと。 そう、吾輩は思うのだにゃ〜。」

「悪い?ああ、地球人がって事ですか?それとも野球が?」

「両方だにゃー、特に野球は良いにゃ、吾輩あんな面白いものは見た事がなかった、ルールも完璧にゃ。玉打ってポーンってなってウヒョーってなるにゃ。 最高にゃ。」

「完全にバカにしてますよね?」

「バカになんかしてないにゃ、吾輩お前の消える魔球打つ時は真剣に空振りしてるにゃ。
よし、準備できたにゃ。 貴様はただ目を閉じれば良いだけにゃ。」

「は?運転中ですよ!あっという間に二人とも死にますよ、高速道路ですよ!」

「大丈夫にゃ、代わりにダミーのプログラムを起動させるにゃ、貴様のかったるい脳みそにな。」

「いやいやいや、もう無茶苦茶だ、嫌だ俺はアンタと心中したくないよ。」

「ま、目を閉じなくても勝手にやるけどにゃ、アハハハ。」

そう言って國山は狂気の様な高笑いを上げて何かに集中する様に目を閉じる。

種田の視界が歪む、強烈な眠気が襲う様に瞼を支えられなくなり、眠りに落ちそうになるが抗えない。

深い深い暗闇に引き摺り込まれる様に種田は眠り、暗い深海の様な世界に落ちていく。

時折、疲れ過ぎて目覚ましを掛けていた時間より早く目覚めてしまう様な時があるが、その時に限ってやたらと目覚めが良かったりするが、その時に似ていた。

目覚めて最初に見た風景はこの世の物ではなかった。

真っ白な氷の世界に広がるガラスの集合体の様な街が眼下に広がる

巨大なガラス窓の内側に居て、かなりの高さだ。 

部屋には見た事もない四角形の箱が幾つか並んでいる。 それ以外には何も無い。

そこで突然脳内に直接言葉が響き渡る。

「どうにゃ〜?我々の美しい星は。 素直な感想を言ってみろ」

「まさか、、國山さん、本当に? 何かの幻覚じゃないのか?」

「我々の世界では嘘は無意味だにゃ、会話は無く、脳波で電子的にコミュニケーションを取るから嘘だとすぐ分かってしまうにゃ。 声帯が退化して発生できるタイプは稀だにゃ」

「あり得ない、こんな事が本当にあり得るのか。
本当に他の星が存在するのか。 國山さん、アンタ本当にここから来たって事か。」

「んー、正確には来ていないにゃ、國山は肉体を借りているだけにゃ、吾輩の実体は今もこの星にあるでげす。 今のお前と同じ状況だにゃ。

その部屋はこういったテスト時に使ったり、緊急避難用のシェルターだにゃ〜。 

だけど、電気的な信号で通信状態にあるから、ざっと地球までの距離で情報が届くまでかなりのタイムラグがあるにゃ。」

「どの位アンタの星は離れてるんだ?」

「ざっとお前達の単位で0.03光年かにゃ」

「いや、それだとよく分からないけど、今もそっちは時間が進んでるんだよな? 大丈夫なのか?」

「あくまで分かりやすい様にお前達の単位で言っただけだにゃ、我々の信号送信スピードは光を遥かに超える。心配するな、隣でお前は眠ってるにゃ。」

「分かった、もうよく分かったよ。」

種田は大きく深呼吸をする、大きく溜息を吐く。

「俺は何もすれば良いんだ?」

「ちょっと預かってもらいたい物があるにゃ。 それで地球の査定を先延ばしに出来るかも知れない。 消える魔球を投げた上に、地球を守るヒーローだにゃ、カッコいいぞタネにゃ。」

「勘弁して下さいよ、國山さん。」

随分と間が空いてしまったが、まだしつこく続きを書いてみる。

 近頃仕事のし過ぎなのか、言葉が上手く出てこない、何事も鍛錬を怠るとすぐに腕は落ちてしまうものだと 痛感する。 最後の更新を見るとなんと2月だったのか、、、店主の感覚では2カ月くらいサボったと思っていたのだが。 

それにしても國山の存在が疎ましい。 彼の計画のせいで話がややこしくなってしまい、まとめるのに大変な苦労をしている。 

彼が地球の査定をどこまで介入できるのか、それが難しい。 恐らく彼の世界では生活や政治の中で物理的な物は殆ど存在意義を失くしていると想像しているのだが、 その世界を想像しながらクーデター的な事を思い浮かべるが、頭がこんがらがってしまって上手くいかない。

 達人の小説家ならここを突破するのだろうが、果たして素人に手におえる代物だろうか? まぁどうせ趣味なので適当に話を合わせていこうと思う。 

また次回。








2024年2月15日木曜日

キエル魔球 ~種田ホープ軒~ その3 種田と國山

「東京外国為替市場の円相場は高値で横ばいになっています。 1ドル110円45銭~47銭の高い円高水準となっており、日本製品の競争力低下が懸念されいます。」


店内の天井隅に設置されたテレビから為替のニュースが事もなげにツラツラと流れている。

幸田は素早くざっとの計算で自身の外貨資産を脳内で暗算していく

「なるほど、つまりこういうことか。 種田さんは國山の言う事を信じた。 その根拠として彼の脅威的な野球技術は人間の肉体的な限界を遥かに超えていたと。」

「まぁ簡単に言うとそういうことになるね。勿論それだけではないよ。 だけど、彼のやってた事はプロ野球選手、もっと言うと人間の成人男性が鍛錬して到達出来る次元ではなかった。」

幸田の質問は端的にこうだった。

「どこの誰が宇宙人で、ここにいて何をしているのか?」

幸田の席から3つ離れたカウンター席で足田は警戒を解かない。 気になっているのは先程出て行った山ちゃんと呼ばれる男。

奴は恐らく帰らない。 種田に言われて渋々店を出たが、出た後に一切店内を振り返らなかった。 飲んだくれのオッサンを演じていたが、頭の中から出てくる殺気が半端ではない。

それに、店を出て行ってしまって、この後店内の様子を確認出来ないのなら、後ろ髪を引かれて必ず気にする素振りが出てしまう。つまり振り返る。 だが、全く無いという事は、直ぐに監視する予定なので、店を出た段階で中を確認する必要が無いという事だ。 或いは帰るという見せかけの意思を敢えて見せたという事だろう。

種田との接触の後、奴と接触する可能性は極めて高い。 即戦闘になる可能性もあるので、先回りで戦法を張り巡らせる。 幸田も恐らくそこは織り込み済み、俺がそっちを自発で担当して段取りするのは予想しているだろう。

故に奴は今謎解きに夢中だ。

俺はそっちには全く関心がないが。 半グレ同様、奴が危険な人物であれば俺の監視対象としては成立する。 

「ん〜、種田さん、やっぱりちょっとよくわからないんだけどさ、國山は元々農家の息子だったんだよね? プロ野球選手になる前も農家だった。 それが何故宇宙人だと自分から種田さんに告白して、何故地球にいるのか説明し始めたんだろうか。  それってつまりは、、。」

「そう、アンタの予想している通りだと思うよ。 國山は、プロ野球になる前に精神的には一度は死んだ。 言い換えれば、國山は肉体を宇宙人に乗っ取られた。」

「マジか、、。」

流石の幸田も呆気に取られる。 ファンタジーにも程がある。 足田は少々アホくさくなってきて飽きてきていた。

「ではアンタはプロ野球選手現役の間、乗り移った宇宙人と戦っていたと。」

「結果的にそうなるね」

「ますます分からない、乗り移った宇宙人、一応國山と呼ぶが、乗り移られた國山は、、」

そこは無関心の足田も率直な疑問に思う。

"何故宇宙人が野球をやっている?"

かなりの沈黙が続いた。

せっかちな幸田も先を急がせない、何故なら何となくだが、先程の山ちゃんと呼ばれる男の圧力を感じているのだろう、そこが本質であれば種田は簡単に口を割らない。

「この話は恐らくとても危険だから余りしたくないのだがねぇ。 アタシももう歳だし、年甲斐もなくトラブルはごめんだ。 実はこの店もね、後もう少しで畳もうかと思っていたところでね。

「話をする事自体が危険なの? 少なくともここには俺達3人しかいないが。」

「彼等はどこにいても聞いてるさ、必ずね。 でも、もう良いかな。 こうやってはるばるこの問題に首を突っ込んでアンタらが聞きに来てくれたんだし、ここらがアタシの限界だろう。

当時ね、國山さんが何故アタシにこの話をしてくれたかは、ハッキリとは分からないが、彼は当時こう言っていた。」

時は遡り、30余年前。

プロ野球シーズンも中盤に差し掛かって、先発投手として、投球の疲労が溜まってきた種田は、消える魔球を投げつつける事に苦悩していた。 肉体的にも精神的にも限界だと思っていた。 

その晩の阪神ブレイブスと中日キングスのゲーム終了後。

種田が帰路に着く為、車に乗り込もうとしていた所に國山は突如現れた。

「タネニャン、こんばんにゃ。」

「國山さん!何故こんな所に?」

「タネニャン、たらい回しに行こう」

「たらい回し?何を言ってるんですか?」

「ボケ! たらい回しを楽しむお前達!」

「ボケって…ひどいな。 たらい回し、、あぁ、ひょっとしてドライブの事ですか?」

「あぁ、それ。 ドライブ、貴様と話をしたい。」

「貴様って…失礼だな貴方。 分かりましたよ。」

種田は戸惑いながらも、当時から独身なのでどちらにしても試合が終われば家に真っ直ぐ戻った所で飲んで寝るだけだと思い、國山に助手席を勧めようとした時には何故か國山は既に助手席に座っていた。

気味が悪く思いながらも、あの天才スター選手が誘ってくれた事に対して、種田は悪い気はしなかった。

ナゴヤ球場を後にして、車は名古屋首都環状線をゆっくりと走っていく。 種田の愛車は当時でも古いトヨタのクラウンだった。 

「この車は何と言う車にゃ? 楽しいな。」

「そんなに特別な車じゃないですよ、トヨタのクラウンです。 地域柄、トヨタの方が何かと印象が良いんですよ。 1974年式でクラウンとしては4代目。 通称クジラクラウンと呼ばれています。 人によってはブタクラウンとか言ってましたね、当時は3代目に比べて不人気で、直ぐに5代目に切り替わりましたけどね。」

「そんなクソ車に何で乗ってるのだ?」

「クソって…何なんですかさっきからアンタ一体。 國山さんってちょっと頭変ですよね? 
この車はね、何だか自分に似てる感じがしてね。 この車はピカイチで内装が美しい、デザインも機能も当時から他の高級車から抜きに出ていた。 それだけが良い所。 
それがね、消える魔球を投げ続ける自分とちょっと似てるかなってね。」

「なるほどな。 確かに、このココのあたりとか良いな、この具合が。」

そう言って國山は握った握り拳でダッシュボードを思いっ切りパンチし始めた、ダッシュボードが激しい音を立てて軋む。

「おい!國山!何やってんだアンタ!」

「ん?ああ、気にするな種田、良い事だ。」

「はぁ?何なんだ一体、、」

「種田、野球好きか?」

「いきなり何なんですか? 野球好きかって、複雑ですよ、好きだけどね。 そう簡単に割り切れるモンでもない。 特に私の場合、消える魔球が無ければ、誰かを投げ取れる球種を持っていない。 恐らく消える魔球を止めれば、連日被弾の嵐でしょう。 消える魔球を投げ続けなければ野球選手ではいられないでしょう。
言い換えれば、消える魔球が無い私は高校球児以下の草野球チームの投手です。 
だけど、好きだから、誰よりも練習はしてきたつもりです。
だけど、そんなにうまくはならなかった。 ギリギリ崖っぷち、プロ入り出来たのもドラフト外でしかも練習生でした。」

「その練習生時代に消える魔球を会得したってな。」

種田は思う、この人野球になると急に普通に話し始めたな。

「そうです、練習中に汗で手がべとべとになって、球が滑って失投したのが最初です。 練習生のキャッチャーが受け損じて、騒いだんです。」

「一瞬球が見えなくなった、ブレてボヤけた。と。」

「そうです、あり得ないと思いつつ、似た様な投げ方を何度も何度も繰り返す内に球が高速で振動して空間に溶け込む様になった。
ただ、あの球種を投げる為に、異常な力みと手首のスナップを使いますから、この歳になって、そろそろ限界を感じています。 もう、右腕が限界なんです。」

「そうやってこの我輩を討ち取るのか。 素晴らしい。 あの球は我輩の解析データに数値的にも情報が上がってこない。 だから我輩でも殆ど打てない。 我々の技術を駆使しても解析できない極めて異質な現象だと本部は言っていた。
貴様に出会うまで、報告書には野球文化は我々の時代には不要であると報告しようと思っていたが、貴様に討ち取られて気が変わった。
残すべき文化として報告を上げたのだが、本部は保存条件不足としてそれを拒否している。 
我輩はそれに反発して、監査員を入れ替えるなら交代要員を消去すると話しているのだが。
種田どう思う?」

「いやいや、何の話か分かりませんね、何か文化の査定でもしてるんですか? どこのお役所なんですか?」

「役所ではない、お前達地球人によるこの惑星の支配権与奪を検討する惑星外生命体が構成する団体による査定だ。」

「頭おかしいのかアンタ、ちょっとやめてくれ」

「この男の頭は特に異常検出されていない。実体としては我輩はここに居ないが、國山という男の精神と肉体をデータ送受信で動かして國山を操作している。 物理的にこの惑星に惑星外から生命体が到達する事は難しいが、データとしてネット送受信してコントロールする事は可能とする技術が既にこの惑星外でスタンダードになっている。
お前達地球人の技術でも脳科学の分野においては原始的な脳波通信は一応確立しつつある。
ただ、意識に介入して脳をコントロールする所までは遥か遠いがな
そうして、この惑星における人間すべての活動、自然環境、惑星近宇宙の環境を監視しているのだが、いよいよお前達人間の活性化と活動理念及び実働が問題視される様になったというわけだ。」

「その話、俺はどうやって信じればいい?」

「それは想定通りだ、準備してあるので証明しよう。 その代わり、信じてもらえるのなら、手伝って貰いたい事がある。

「バカバカしい、どうせ先に何を手伝うのか聞いても教えてくれないんでしょ? だったらさっさとやってみてくれ。因みにお金は貸しませんよ」

種田はもはや、冷や汗が止まらない、車の隣に載せた男が、宇宙人であると言う。

あまつさえ、地球人はどうも危ないらしい。



何とか上手く話を繋げたが、かなり強引な曲げ方が気になってしまう。

別のルートで國山の影を追っている新聞記者である加藤との関係性をどのように繋げていくのか、繋げないのか? 最後まで繋げない事も想定できるが、店主的には乗っ取られる前の國山を加藤には掘り下げてもらいたい所もあったり、乗っ取られて死んでしまった当時の解析も加藤にしかできないだろう。

しかし、最も難しい局面は、今回明らかになった地球外からの地球人査定の話を、世間に出すのか出さないのかというラインである。

恐らく前者は店主のスキルではほぼ不可能かと思う。

加えて、時間的制約が大きすぎて恐らく書き切れない。 毎日こんな事が書けたらどんなに幸せだろうかと思いつつ、根気良く続けていきたい。

何の為に? いずれ歳を取ってバイクいじり以外の余暇の楽しみの為に。




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