2024年2月15日木曜日

キエル魔球 ~種田ホープ軒~ その3 種田と國山

「東京外国為替市場の円相場は高値で横ばいになっています。 1ドル110円45銭~47銭の高い円高水準となっており、日本製品の競争力低下が懸念されいます。」


店内の天井隅に設置されたテレビから為替のニュースが事もなげにツラツラと流れている。

幸田は素早くざっとの計算で自身の外貨資産を脳内で暗算していく

「なるほど、つまりこういうことか。 種田さんは國山の言う事を信じた。 その根拠として彼の脅威的な野球技術は人間の肉体的な限界を遥かに超えていたと。」

「まぁ簡単に言うとそういうことになるね。勿論それだけではないよ。 だけど、彼のやってた事はプロ野球選手、もっと言うと人間の成人男性が鍛錬して到達出来る次元ではなかった。」

幸田の質問は端的にこうだった。

「どこの誰が宇宙人で、ここにいて何をしているのか?」

幸田の席から3つ離れたカウンター席で足田は警戒を解かない。 気になっているのは先程出て行った山ちゃんと呼ばれる男。

奴は恐らく帰らない。 種田に言われて渋々店を出たが、出た後に一切店内を振り返らなかった。 飲んだくれのオッサンを演じていたが、頭の中から出てくる殺気が半端ではない。

それに、店を出て行ってしまって、この後店内の様子を確認出来ないのなら、後ろ髪を引かれて必ず気にする素振りが出てしまう。つまり振り返る。 だが、全く無いという事は、直ぐに監視する予定なので、店を出た段階で中を確認する必要が無いという事だ。 或いは帰るという見せかけの意思を敢えて見せたという事だろう。

種田との接触の後、奴と接触する可能性は極めて高い。 即戦闘になる可能性もあるので、先回りで戦法を張り巡らせる。 幸田も恐らくそこは織り込み済み、俺がそっちを自発で担当して段取りするのは予想しているだろう。

故に奴は今謎解きに夢中だ。

俺はそっちには全く関心がないが。 半グレ同様、奴が危険な人物であれば俺の監視対象としては成立する。 

「ん〜、種田さん、やっぱりちょっとよくわからないんだけどさ、國山は元々農家の息子だったんだよね? プロ野球選手になる前も農家だった。 それが何故宇宙人だと自分から種田さんに告白して、何故地球にいるのか説明し始めたんだろうか。  それってつまりは、、。」

「そう、アンタの予想している通りだと思うよ。 國山は、プロ野球になる前に精神的には一度は死んだ。 言い換えれば、國山は肉体を宇宙人に乗っ取られた。」

「マジか、、。」

流石の幸田も呆気に取られる。 ファンタジーにも程がある。 足田は少々アホくさくなってきて飽きてきていた。

「ではアンタはプロ野球選手現役の間、乗り移った宇宙人と戦っていたと。」

「結果的にそうなるね」

「ますます分からない、乗り移った宇宙人、一応國山と呼ぶが、乗り移られた國山は、、」

そこは無関心の足田も率直な疑問に思う。

"何故宇宙人が野球をやっている?"

かなりの沈黙が続いた。

せっかちな幸田も先を急がせない、何故なら何となくだが、先程の山ちゃんと呼ばれる男の圧力を感じているのだろう、そこが本質であれば種田は簡単に口を割らない。

「この話は恐らくとても危険だから余りしたくないのだがねぇ。 アタシももう歳だし、年甲斐もなくトラブルはごめんだ。 実はこの店もね、後もう少しで畳もうかと思っていたところでね。

「話をする事自体が危険なの? 少なくともここには俺達3人しかいないが。」

「彼等はどこにいても聞いてるさ、必ずね。 でも、もう良いかな。 こうやってはるばるこの問題に首を突っ込んでアンタらが聞きに来てくれたんだし、ここらがアタシの限界だろう。

当時ね、國山さんが何故アタシにこの話をしてくれたかは、ハッキリとは分からないが、彼は当時こう言っていた。」

時は遡り、30余年前。

プロ野球シーズンも中盤に差し掛かって、先発投手として、投球の疲労が溜まってきた種田は、消える魔球を投げつつける事に苦悩していた。 肉体的にも精神的にも限界だと思っていた。 

その晩の阪神ブレイブスと中日キングスのゲーム終了後。

種田が帰路に着く為、車に乗り込もうとしていた所に國山は突如現れた。

「タネニャン、こんばんにゃ。」

「國山さん!何故こんな所に?」

「タネニャン、たらい回しに行こう」

「たらい回し?何を言ってるんですか?」

「ボケ! たらい回しを楽しむお前達!」

「ボケって…ひどいな。 たらい回し、、あぁ、ひょっとしてドライブの事ですか?」

「あぁ、それ。 ドライブ、貴様と話をしたい。」

「貴様って…失礼だな貴方。 分かりましたよ。」

種田は戸惑いながらも、当時から独身なのでどちらにしても試合が終われば家に真っ直ぐ戻った所で飲んで寝るだけだと思い、國山に助手席を勧めようとした時には何故か國山は既に助手席に座っていた。

気味が悪く思いながらも、あの天才スター選手が誘ってくれた事に対して、種田は悪い気はしなかった。

ナゴヤ球場を後にして、車は名古屋首都環状線をゆっくりと走っていく。 種田の愛車は当時でも古いトヨタのクラウンだった。 

「この車は何と言う車にゃ? 楽しいな。」

「そんなに特別な車じゃないですよ、トヨタのクラウンです。 地域柄、トヨタの方が何かと印象が良いんですよ。 1974年式でクラウンとしては4代目。 通称クジラクラウンと呼ばれています。 人によってはブタクラウンとか言ってましたね、当時は3代目に比べて不人気で、直ぐに5代目に切り替わりましたけどね。」

「そんなクソ車に何で乗ってるのだ?」

「クソって…何なんですかさっきからアンタ一体。 國山さんってちょっと頭変ですよね? 
この車はね、何だか自分に似てる感じがしてね。 この車はピカイチで内装が美しい、デザインも機能も当時から他の高級車から抜きに出ていた。 それだけが良い所。 
それがね、消える魔球を投げ続ける自分とちょっと似てるかなってね。」

「なるほどな。 確かに、このココのあたりとか良いな、この具合が。」

そう言って國山は握った握り拳でダッシュボードを思いっ切りパンチし始めた、ダッシュボードが激しい音を立てて軋む。

「おい!國山!何やってんだアンタ!」

「ん?ああ、気にするな種田、良い事だ。」

「はぁ?何なんだ一体、、」

「種田、野球好きか?」

「いきなり何なんですか? 野球好きかって、複雑ですよ、好きだけどね。 そう簡単に割り切れるモンでもない。 特に私の場合、消える魔球が無ければ、誰かを投げ取れる球種を持っていない。 恐らく消える魔球を止めれば、連日被弾の嵐でしょう。 消える魔球を投げ続けなければ野球選手ではいられないでしょう。
言い換えれば、消える魔球が無い私は高校球児以下の草野球チームの投手です。 
だけど、好きだから、誰よりも練習はしてきたつもりです。
だけど、そんなにうまくはならなかった。 ギリギリ崖っぷち、プロ入り出来たのもドラフト外でしかも練習生でした。」

「その練習生時代に消える魔球を会得したってな。」

種田は思う、この人野球になると急に普通に話し始めたな。

「そうです、練習中に汗で手がべとべとになって、球が滑って失投したのが最初です。 練習生のキャッチャーが受け損じて、騒いだんです。」

「一瞬球が見えなくなった、ブレてボヤけた。と。」

「そうです、あり得ないと思いつつ、似た様な投げ方を何度も何度も繰り返す内に球が高速で振動して空間に溶け込む様になった。
ただ、あの球種を投げる為に、異常な力みと手首のスナップを使いますから、この歳になって、そろそろ限界を感じています。 もう、右腕が限界なんです。」

「そうやってこの我輩を討ち取るのか。 素晴らしい。 あの球は我輩の解析データに数値的にも情報が上がってこない。 だから我輩でも殆ど打てない。 我々の技術を駆使しても解析できない極めて異質な現象だと本部は言っていた。
貴様に出会うまで、報告書には野球文化は我々の時代には不要であると報告しようと思っていたが、貴様に討ち取られて気が変わった。
残すべき文化として報告を上げたのだが、本部は保存条件不足としてそれを拒否している。 
我輩はそれに反発して、監査員を入れ替えるなら交代要員を消去すると話しているのだが。
種田どう思う?」

「いやいや、何の話か分かりませんね、何か文化の査定でもしてるんですか? どこのお役所なんですか?」

「役所ではない、お前達地球人によるこの惑星の支配権与奪を検討する惑星外生命体が構成する団体による査定だ。」

「頭おかしいのかアンタ、ちょっとやめてくれ」

「この男の頭は特に異常検出されていない。実体としては我輩はここに居ないが、國山という男の精神と肉体をデータ送受信で動かして國山を操作している。 物理的にこの惑星に惑星外から生命体が到達する事は難しいが、データとしてネット送受信してコントロールする事は可能とする技術が既にこの惑星外でスタンダードになっている。
お前達地球人の技術でも脳科学の分野においては原始的な脳波通信は一応確立しつつある。
ただ、意識に介入して脳をコントロールする所までは遥か遠いがな
そうして、この惑星における人間すべての活動、自然環境、惑星近宇宙の環境を監視しているのだが、いよいよお前達人間の活性化と活動理念及び実働が問題視される様になったというわけだ。」

「その話、俺はどうやって信じればいい?」

「それは想定通りだ、準備してあるので証明しよう。 その代わり、信じてもらえるのなら、手伝って貰いたい事がある。

「バカバカしい、どうせ先に何を手伝うのか聞いても教えてくれないんでしょ? だったらさっさとやってみてくれ。因みにお金は貸しませんよ」

種田はもはや、冷や汗が止まらない、車の隣に載せた男が、宇宙人であると言う。

あまつさえ、地球人はどうも危ないらしい。



何とか上手く話を繋げたが、かなり強引な曲げ方が気になってしまう。

別のルートで國山の影を追っている新聞記者である加藤との関係性をどのように繋げていくのか、繋げないのか? 最後まで繋げない事も想定できるが、店主的には乗っ取られる前の國山を加藤には掘り下げてもらいたい所もあったり、乗っ取られて死んでしまった当時の解析も加藤にしかできないだろう。

しかし、最も難しい局面は、今回明らかになった地球外からの地球人査定の話を、世間に出すのか出さないのかというラインである。

恐らく前者は店主のスキルではほぼ不可能かと思う。

加えて、時間的制約が大きすぎて恐らく書き切れない。 毎日こんな事が書けたらどんなに幸せだろうかと思いつつ、根気良く続けていきたい。

何の為に? いずれ歳を取ってバイクいじり以外の余暇の楽しみの為に。




2024年1月4日木曜日

お墓参り

 明けまして、、、、、、、今年も宜しくお願い申し上げます。

能登半島地震の事もありますので、おめでとうございますとはなかなか言えない状況にありますので控えさせて頂きますが、それらも含めて長々と新年の所存を書き連ねていましたが、Wifiトラブルで全て消えてしまいましたのでサラッと終わりたいと思います。(笑)

お題にあります通り、先日は故赤峰氏のお墓参りにも行って参りました、こちらも思う所を長々と書いてみましたが全て消えたので、サラッと終わりにしたいと思います、申し訳ありません、、。

そういう時は執着せずに後ろに流してポジティブに無関心モードで先へ先へ、歩みを進めていきます。

今年は何があろうと明るく元気にポジティブをモットーに、全力で生きます。 昨年も変わりませんが。



2023年12月26日火曜日

年末年始スケジュール


いつも芦田屋ブログをご覧頂きありがとうございます。

年末年始のスケジュールの告知になります、予めご了承の程宜しくお願い申し上げます。


2023年12月24日日曜日

キエル魔球 ~種田ホープ件~ その2 接触

おい足田、お前そんなに歩くの遅かったか?」

「ん?ああ、ちょっと足首を痛めててな。」

「お前、まさか。」

「それはない。忌部の一件以来やばい事はもうやってない。」 

「なら良いが、俺が救った命をせいぜい大切に使ってもらいたいもんだな。」

「ごちゃごちゃうるせぇなぁ、お前は。 ちょっと人助けしてただけだよ、小姑みたいにぶつぶつ言わないでくれ。」 

足田は黒いフルフェイスヘルメットを小脇に抱えて、全身真っ黒な服に真っ黒なキャップを被っている。 胸ポケットに無線機を入れているのか、長さ5センチほどのアンテナが出ている。 

「幸田、お前ここまで電車で来たのか?」

「そりゃ普通、蒲田くんだりまで来るなら電車だろう。 電車は良いぞ、効率面、費用対価的にみても時間に正確且つ経済的だ。 おまけに路線と時間を選べば綺麗なねぇちゃんがいっぱい乗っていて目の保養にもなる。」 

もう一人の小太りの小柄な幸田という男は緑と黒のチェック柄シャツにジーンズ、真っ黒なボサボサのロングヘアに黒縁メガネだ。 見た目は野暮ったいが、顔は整っており男前であるが、それ以外で全て台無しという見た目である。

一見して奇妙な二人組は足早にとあるラーメン屋店の前までやってきた。

看板にはこうある。

"種田ホープ軒"

「おお!これか、これが噂の宇宙人が経営するラーメン屋。 本当にあるのか。」

幸田は看板を見上げて感嘆の声を上げた。

「バカバカしい、お前本気で信じてるのか? 何度も聞くが、仮に宇宙人だったとして、なんでラーメン屋なんだよ。 あり得ないだろ普通。」

「足田、宇宙人のメジャースタンダードとは何だ? その普遍的且つ整合性の取れた一般論とは何処の世界の一般だ? 宇宙人はラーメン屋はやらない? そんな事は逆に言えば奇妙だ、やるかも知れないし、やらないかも知れない。」 

「あー、分かった分かった、お前の講釈はもう聞き飽きた。 とりあえず入ってラーメン食おう、腹が減った。」

「待て待て、もう少し店全体を観察してみよう。」

そう言って幸田は店の前を通る片道1車線の道路の反対側からスマートフォンを向けて写真を撮影する。

足田は呆れて、その様子を眺めていると、店の中から少し気の立った視線を感じる。

そちら側を目線を意識しない様に細心の注意を払って、視界の端に入る人物を捉える。

調理用の白衣、店主か? 客も一人いる様だ。怪しまれているのか、こちらを凝視しているな。 まぁ、客観的にみて店の前で彷徨いていれば怪しいか。

「おい幸田!いい加減にしてくれ、早く店に入ろう。」

「おお、分かった、食いしん坊の足田くん。」

幸田が赤い暖簾を掻き分けて、アルミサッシの引き戸をガラガラと開ける。

中には薄らと湯気が立ち上り、何かを刻んでいる店主らしき老人が正面に一人。 

向かって右側のカウンターに中年の男が一人、ビールをグラスに半分程注いで片手に持っていた。

店内にはテレビが設置されており、左のトイレ手前には本棚があり、漫画本が単行本で綺麗に整理された状態で整列していた。

カウンターの天井張り出しには手書きと思われる品書きが陳列してあり、紙の朽ち具合から見てかなりの年数を感じさせる。

幸田は一瞬でぐるりと目を回し、店内の様子を観察する。 店主と思しき老人は目つきが鋭い、だが威圧的なものでは無く、単なる人生の年季といったところか。 

だが、気になったのは中年の男。 この男、妙だ。 俺たち二人がドアを引いて入ってきた時点で、カウンターに座った位置から一瞬たりとも、ぴくりとも首も顔も目線も動かさなかった。 一貫して前だけを見ていた。

通常、二人きりの空間に、真後ろから背後に人の気配を感じて身体のどの部位も不動である事は稀だ。 一瞬見てしまうか、首が少し動く。
妙だ、まるで来る事が分かっていたみたいだな。

二人はゆっくりとカウンター席に座る。

店主が口を開く。

「いらっしゃい。お水はセルフだからね、そっちのコップ使って自由に飲んでね。」

そこで初めて店主が少し微笑んだ。

足田が頷いて、立ち上がって給水器に近づく。 その途中、中年の男の背後を通る。 

足田は感じる、この男、かなり危険な匂いがする。 こいつ、血生臭いな、悪人か? いや、悪人というか、、何か違う。 

足田の直感は理屈ではなかった。 忌部という新宿を拠点とする半グレ団体のリーダーを復讐の為に殺害する目的で、数年に渡り単独で半グレグループと死闘を繰り広げた人物である。

結果、忌部との直接対決によって環状8号線の殺し合いのレースに敗北して死に掛けたが、間一髪の所で、相棒の幸田の助けにより一命を取り留めた。 

生半可ではない反社との抗争の中で培った危険な人間を嗅ぎ分ける嗅覚が、その男の背後を通った瞬間に、頭の中で警報が鳴り響く。

こいつはかなりヤバい。

緊張の糸を切らさぬ様にしながらも、平静を装って、そのまま何食わぬ顔で水を汲んで幸田の隣にドスンと座る。 

「ほい、水だ。」

「おう、ありがとよー。」

幸田も平静を崩さない。 裏の顔では天才ハッカーの名を馳せる危険人物だが、表の顔はただの介護施設業者向け専門のシステムエンジニアだ。 足田が半グレとの抗争を続けていた際には偽造免許や偽造ナンバー、果てには偽の戸籍まで用意する裏社会への精通ぶり。 

最終的に忌部を仕留めたのは幸田と言っても過言ではなかった。

「オヤジさん、俺チャーシューメン。」

「じゃあ俺は、、、塩ラーメンで。 卵一個トッピング。」

あいよ。

店主が麺を茹でて、調理を手早く開始する。 流石に手際は良い、ここ最近脱サラして始めましたというレベルではない。

しかし、幸田は思う。 この男、話によれば元プロ野球選手。 これが、恐らく種田か、、。 果たしてこいつが宇宙人なのか?
ただのジジイにしか見えんな、しかし、消える魔球を投げたという伝説もある。 独自の調査によると、その消える魔球を巡っては当時かなりの揉め事もあったと聞くが。

直接このジジイに聞いてみるのも悪くないが、
それに際して気になるのはこの隣の男だ、恐らく足田もそれが気になっている筈。

さっきから一度も、ピクリとも動いていない。ビールも飲んでいない、ただ、持っているだけ
。 

唐突に店主が口を開く。

「山ちゃん。 今日はもう帰ってくれないか。」

水を打ったように店内が静まり返る。

少しの沈黙の後に、中年の男が何かを思い出したかの様に、まるで完全放電していた電池を、新品に入れ替えた後の壁時計の様に動き出した。

「え、おやっさんまだビール残ってるんだけどなぁ。 ナイター見ていきたいんだけんにょ、帰らないとダメ?」

「悪いね。 多分この人達ワタシと少し話があるんだと思うんだよね。 オタクら何か聞きたいんでしょ? そんな顔してるよ。」

「お、話が早いねオヤジさん。 まぁそういう事。 いやマスコミじゃないよ、俺たちはテレビでもない。 ただの好奇心なんだ、ただ本当のところは野球に全く興味は無い。
知りたいのは、"この店に宇宙人がいるらしい"という情報を聞いちゃったもんだから、真相を確かめに来たってわけ。」

その瞬間、中年の男の全身から奇妙な音が鳴り始める。

キキキキキ!

足田がカウンターから素早く立ち上がり、戦闘体制に入る、右手には既に特殊警棒が握られていた。

なんの真似だオッサン、何を鳴らした!

足田は叫ぶ。

「山ちゃん!今日は帰ってくれ。 後はワタシの方で上手くやるから。」

「おやっさん、彼等は少し知り過ぎてやしないかい? この前の半魚人の小僧とは訳が違う気がするでゴンス。」 

「半魚人じゃなくて半人前な。まぁ、山ちゃんも落ち着いてくれ、昔の約束を思い出してくれ。」

「ヤケクソ?ああ、それならヤケクソにゃ、分かってるでげすよ。 クニヤマのヤケクソ守るね。」

幸田は三者の様子を繁々と眺めている。

一人ニヤニヤとしながら幸田は思った、こいつはとんでもない店に来ちまったな、マジで宇宙人に会えるかも。








長い間更新できずにいたキエル魔球の続きをやっと更新したのだが、流石に間が空きすぎて書いている当人がどんなストーリーだったか忘れかけている事態に。

構成も微妙にあやふやになって思い出すのに時間が掛かって余計に書く意欲を阻害してしまったがなんとか強引に続ける。

本業のスケジュールがタイトすぎて余力が全くでない状況が結局1年続きで今年もあと残すところ僅か。

実は先日書いた河川敷ファーザー一家の続きも書きたくなって、事件に巻き込まれ体質の俊樹の別の活躍を描きたくなってしまい、そっちにも気を取られでひっちゃかめっちゃかであった。

とは言え、種田と國山の戦いはどういう着地に持っていくべきか、マウンド上での戦いも描く予定ではあるがその水面下で繰り広げられるマウンド外での二人の戦いも楽しみである。

そこへ別雑誌に掲載した小説で活躍した、個人武装した半グレ狩り(現在ボランティア人助けの人)足田と、天才ハッカー兼情報屋 幸田の危険なコンビも乱入してしまい、我ながら思うに素人のくせに難しい事を無理やりやろうとしてずっこけるパターンである。

まるで習いたてのギターを掻き鳴らす高校生の様である。

だがそれでいい、粗削りから粗を取って仕上げていく。それでいい、それが芦田流である。

2023年10月24日火曜日

芦田屋スケジュールのお知らせ

 なかなか小説の続きが書けずに日々もがいております。

そう言えば、店主の夢の一つに、本気で小説を書いてみたいという夢があります。

勿論今でもまぁまぁ本気で書いているのですが、有効時間の制限が高く、月に1時間確保できればかなり運がいい方で、欲を言うと1カ月丸々使ってみたいと思っています。

今の所、それが出来そうな雰囲気は全くありませんが。

当面は四の五の言わずに今芦田屋を必要として下さっているライダーのお役に少しでも立てる様に日々拙い蓄積したスキルをご奉仕させて頂く所存でございます。

11月以降の日程でお知らせがございます。

イベントを少々、後は鞭打った体に少し休憩を入れさせて頂きます。




2023年9月23日土曜日

44歳マグナム。

最近自分が若輩なのか老獪なのか分からない年齢だなと思う事が多々ある。

44歳というと、そういった年齢なのだろうか。

随分と気も長くなり、客観的に見てもこれは痛いな!という言動を回避できるようになってきて、立ち回りも随分と器用になった実感がある。

それを会社員時代にやっとけよという話であるが、30代の店主は不器用であった。

頑なであり、自信家であり、努力家であり(日本的には自分で言うべきではないが敢えて明快な文脈にする為)、20年以上の現場経験値があり、それらが周囲との少なくはない摩擦抵抗係数として潜在的に自身にストレスを与えていた様に感じる。

無論周囲に対してもストレスを加える存在だったのではなかろうか。

元々気難しい事を考える気質なので、シンプルイズベストの思考回路の人間や、超楽観的な人からは煙たい存在であったと思う。

ある人には根暗と言われたこともある。

が、根暗ではない、物事の正体を、哲学的な部分と社会学的な部分とを分け隔てて考えたいだけである。

まぁそんなことはどうでも良いのだが、40代も中盤になり、30代の若い方々の言動をとてももどかしく感じるようになってきた。

もどかしいまでは良いのだが、そのままではうまくいかないぞいう言動を如何に良好な結果を出せる様に指南するべきか。

対人とのやり取りの中で、論理的にはそれで良い、理屈は確かにそう、あなたは間違ってはいないのだが、、、そこはへりくだって忖度しなくては相手は心地良くない。

その相手にその経験値を真っ直ぐぶつけるのは絶対上手くいかない。 

そういった事が凄く分かる様になってきて、それを攻めの一手で戦う30代を見て、店主の様な年代はどう導く、はたまたアドバイスしてあげる(30代にアドバイスはとても難しい、良薬口に苦しになりがちである)のが王道であるのか?

いや、王道はなくとも、最大限の良好な結果を導き出すにはどのような立ち振る舞いを見出すべきか?

そんな取り付く島もない様な事柄をぼんやり考えたりする日々ですが、まぁ組織を完全に抜けた浪人の立場でありますから、後輩の世話も下手をすると余計なお世話になりかねませんから、程ほどにしつつ。

いつもまでも頼りがいのある、安心感のある先輩で居てあげたいなと思ったりしています。

自分には最終的にそういった先輩は一人か二人になってしまいましたから。

今でも思い出すのは、30代の頃は上司と呼べる人にあまり尊敬できる人はあまりいなかったような、、、。 思えば悪い人ばっかりだっただろうか。

だが、そのこと自体は悪いとも思わない、世界には良い人と悪い人が両方いてその割合は常に社会的な大きな力によるバランスであるから、個人にとってコントローラブルではないし、操作不能なラプラスの悪魔的な運命の部分が大きい。

途轍もなく非合理的な業務を指令を受けたりして、それを真っ向から非合理的な部分を指摘してあたりが強くなってしまい随分と肩身の狭い思いをしたこともありつつ。

そんなことも思い出していると、30代は第2の思春期とも言える様な気がしてならない。

そんな思春期に入った大の大人の取り扱い、世の40代のおじさん達は大変苦労を重ねている事だろう。

50代に入ればまた新たな境地が見えてくるのだろうが、当然店主にはまだ見えない。

だから先輩方のお話は慎重に、心の耳を傾ける様にしている、そんな事は知っているというような話でも、先入観は一度捨てきって、やはり改めてじっくり聞く様にしている。

そうすると、重要な補足事項が含まれている事に気付いたりする。

やはり40代、この辺りが結構器用だぜ。

しかしそうやって50代、60代とやって行く内に、あら不思議、ぽっくり逝ってしまうのか、儚きかな人間の一生。

人間性の完成とは一生を終える事に帰還してしまうのだろうか?

まぁどうでも良いんですが、11月にレース復帰予定なのですが、今から恐くて仕方なくて。

ずっとこれまで一度も怖くなかったんですが、不思議です、怪我や転倒でお店に何かあるとどうしようかと恐くて仕方ないです。

この雨が終ったら漸く秋が来るのか。









2023年9月1日金曜日

キエル魔球 ~新山運送 新山~ その1

 「はいはい」

 

電話の相手は無愛想な印象で、端的に返事だけを発した。

 

新山運送は従業員数50名を抱えるそれなりの中小企業であり、走らせている関東のトラック便も関東圏内の業界ではそれなりのシェアを誇っていた。 

 

特に千葉県内のシェアが強く、地元企業としては有力な方である。

 

しかし中小企業にありがちな、配送の依頼ではない案件に関しての窓口以外は存在せず、とりあえずのホームページに記載されていた代表番号に加藤はこれまた若さなりの勢いと情熱に身を任せて、いきなり電話を掛けてみたのである。

 

「あ、失礼ですが、新山運送様のお電話で間違い無かったでしょうか?」

 

「はい、そうだけどどちらさんかな?」

 

加藤は大手の新聞社の一員であるが故に、こういった類の対応には些か不満を感じる、大手では決して許されない横柄な態度である。

新山運送の社員教育はどうなってるんだと、憤然としてしまったところで、まさかと思う。

 

「大変失礼ですが、お電話口の方は新山社長でしょうか?」

 

「ああ、そうだけどね、お宅は誰なの?」

 

加藤は身分を明かし、電話した要件と新山運送に行き着いた経緯を細かく説明した所で、新山社長、つまり元千葉ロッテシャークス新山投手はこう答えた。

 

「國山さん…アンタ本気でそれ嗅ぎ回ってるのか? あ、ダメだ、電話だと話せない、要件は分かったからとりあえず会社に来てくれ。 車で来るのか?」

 

「は?勿論こちらからお伺いさせて頂きますが、電話で話せないというのはどういった事情なのですか?」

 

「いや、それも会ってから話す。 後もう一つ、種田という人に会ったか?」

 

「種田さん、勿論お名前は聞いてますが、國山選手の取材上で候補に上がっていますが、まだ会ってませんね。」

 

「それなら良かった、会わずに来てくれ。」

 

加藤は電話の後、駒田元実況アナウンサーの自宅を出て、秩父から直接千葉県柏市にある新山運送まで車を走らせていた。

 

加藤は流石に遅い時間に申し訳ないと思ったのだが、当の新山社長は気にも留めなかった。

何時でも会社にいる、中小企業の社長に休みなんてないと、社長はそう断言した。

 

夕方ごろに秩父を出て、柏市まで一旦関越道を戻って外環で行くしかない。 2時間は掛かる。

 

道中、ぼんやりとまた長閑な景色に目を見やって、駒田氏の言葉を思い出す。

 

國山のヒーローインタビュー。

 

"皆さんの命もなんたら" "引退もせず河川敷で死体で見つかる"

 

一体どういう事なんだ?

 

彼は野球選手ではないのか?

 

だとしたら何の為に野球をやってたんだ?

 

疑問ばかり出てくる、調べれば調べるほど謎だらけだ。 4割打ってた野球選手を調べるだけで、何故こんなに妙な不気味な背筋がゾクゾクする悪寒を感じるのだろう。

 

そこに突然スマホに電話が入り、車のオーディオパネルに"公衆電話"の表記が表示される。

 

加藤は直感的に全身に鳥肌が立つ、この電話…何だ、何故か出てはいけない気がする、何故今時公衆電話なのだ?

 

が、記者としての気概か、出れる電話は全て出る。 情報を得られる機会を僅かでも失わない、関さんに叩き込まれた基本だ。

 

加藤は通話のボタンを押す。

 

「もしもし。」

 

「ジー、ジー、ガガッ」

 

「もしもし?どちら様ですか? 新山さんですか?」

 

「ガガッ、地球人はよく働く。 だが、働きすぎは良くない…暫く休みを取ったらどうか?」

 

「あんた誰だ? 急に何を言ってるですか?」

 

「ジジジー、休め、止まれ、止まれ?じゃないや止めろ?」

 

そこで電話が切れる。

 

加藤は急に恐ろしくなってサービスエリアに止まり、自動販売機に早歩きで駆け寄り、お釣りを取るのも後回しにしてブラックの缶コーヒーを一気に飲み干す。

 

何ださっきの電話。 何だろうこの違和感、この世のものでは無いような声の質感と言うか、違和感。 電波の様なノイズを聞いている様な。

 

変な言葉を聞いたような感じ、この世の言葉ではない様な。

 

この世の物ではない? 國山…國山? 國山だと? あの雰囲気、まさか。

 

しかし、あり得ない、國山はとうの昔に死んでいる。 実際に遺体も出ているし、その後國山を見かけたなんてオカルトも聞いた事がない。

 

この取材、やばい感じがする。

 

だが、暴かないといけない気もする、國山選手の謎。 

 

気を取り直し、加藤は車を猛スピードで車を走らせて、外環から首都高速6号、国道16号へと走らせていく。

 

ようやくの長いドライブを終えて新山運送株式会社に到着した際に驚いた。

 

会社の表でタバコを吹かしながらしかめっ面の初老の男性が待っていた。

 

「あの、中日スポーツの加藤と申します、新山社長はいらっしゃいますでしょうか?」

 

「待ってた、俺だよ。 良かった、アンタ無事に来れたか。」

 

「え? ああ、まぁ安全運転で来たので。わざわざ待ってくださってたんですね!」

 

加藤は新山の言う、無事にという言葉に引っ掛かりを覚える。 普通言わないな、無事に? 高が高速を車を走らせて来ただけだぞ。

 

「まぁ、とりあえずウチの応接室に来てよ、ここじゃ立ち話になっちまうでしょ。」

 

「恐れ入ります、お忙しい中お時間頂戴しまして申し訳ありません。」

 

「本当だよ、中小企業の社長は忙しいからね、何だったら人がいない時は俺が運転する時もあるんだから」

 

「そうなんですか! 社長自らですか?」

 

「うん、いやまぁ、それはどうでもいいか、それより國山さんの事だろ?」

 

二人は社屋に入り、階段を上がりながら応接室に向かう。

 

歩きながら新山が聞く。

 

「ところで加藤さんアンタ、あの人の事、どこまで調べたの?」

 

「本日は元実況アナウンサーの駒田さんへ取材に行って参りまして、そこで当時の試合の話などをお聞きして、その過程で新山社長のご活躍を耳にしまして…」

 

応接室のドアを開けて、新山がソファを指さして座る様に加藤を促す。 話しながら、手慣れた手付きで自身でお茶を入れる。

 

新山は元プロ野球選手だけあって背高でがっしりとした体格だ、背中も広い。 この体格に相待って恰幅も良く、少なくとも見た目だけで言えば差し詰め貫禄タップリの社長さんである。 

 

「ああ、それで俺があの人との勝負で滅多打ちになってその後引退した流れで聴いてる訳だね。 それ以外で國山さんの話は聞いたか?」

 

「いえ、駒田さんも國山さんは謎ばかりで詳しい事は分からないと。」

 

「ならそれでいい。 悪いことは言わない、もうこの辺でやめときな。」

 

「は?やめときなっていうのは、取材をですか?」

 

「そうだ、國山さんの事は謎で良いんだよ、それでもう解決したし、苦労して解決した人がいるんだ。 その人の苦労を台無しにしちゃいかん。 それに

 

「何ですか勿体ぶって!」

 

加藤は全身でやばい案件の匂いを嗅ぎ取る、記者の勘というものかも知れない。

 

「アンタみたいに國山を追いかけて消えた人間がいる。」

 

「消えた?行方不明って事ですか? 何ですか、バカバカしい、國山さんは反社が何かの親分さんですか?」

 

「まぁみんなそう言うんだよ、バカバカしい、そうだよな。 だけどな説明不可能な事だって世の中には沢山ある。 おかしな事が周りで起きてしまう、最初からおかしかった…あの人が球界に入った所からおかしかったんだよ。」

 

「新山社長、一体何を知ってるんですか? 話して下さい。」

 

「アンタ命知らずだな、この会話だってどこまで聞かれてるか分かったもんじゃないんだが…分かった。 まぁとりあえずお茶飲みなよ。」

 

そう言って新山はお茶を加藤に勧める。

 

その手が少し震えているのを加藤は見逃さなかった。

 

怯えている? 加藤は縦横無尽に駆け巡る好奇心と、先程の公衆電話からの会話の恐怖との交錯で、自制が効かなくなっていた。

 

こんな時関さんなら一旦落ち着いて家に戻って一呼吸置くのだろうか?

 

まるで先が早く知りたくて、グングン読み進めて止まらなくなってしまった小説の様だと感じる。

 

加藤は新山の話の結末を、水に飢えた植物の様に吸収していく。 

 

一方その頃、大田区の種田ホープ軒に変わった二人組の男達が来店していた。




以前一度月一回更新を断念しているので、特にそこに拘る必要は無いのだと思うのだが、やはり一度自分に負けたからとはいっても、2度負けたくない。
一体何と戦っているのだろうかと思う事もあるが、ここが結構大事なところだと思う。
何かが途絶えてしまってもういいやとなる事は、日常的によくある事だが、そこからもう一度、以前と同じ様な情熱でトライし続ける負けん気というのが、結果を出していく上で、大切だと思うのである。
これは仕事上で非常に役に立つことが多い。
まぁ平たく言えば、不屈の闘志的な物だろうか。
こういう考え方で、日々楽しいのか?と聞かれる事もあるが、日々チャレンジすることは楽しい。 重要なのは、心に悪影響を及ぼす程に自分を追い込むか追い込まないかであるから、チャレンジ自体は本来楽しい物なのである。 要は心持が肝要であるという事だろうと認識している。
それにしても、高架下は常に寂しい。 何故だろう、不思議だ。


キエル魔球 ~種田ホープ軒~ その3 種田と國山

「東京外国為替市場の円相場は高値で横ばいになっています。 1ドル110円45銭~47銭の高い円高水準となっており、日本 製品の競争力低下が懸念されいます。」 店内の天井隅に設置されたテレビから為替のニュースが事もなげに ツラツラと流れている。 幸田は素早くざっとの計算で自身の外貨...